クラブトークンが育てていく
「わたしたち」のサッカークラブ

四方健太郎氏は、シンガポール在住でありながら、鎌倉でサッカークラブを創設。「CLUB WITHOUT BORDERS」(国境/境界線を持たないクラブ)をビジョンに掲げ、国籍/国境/性差/ハンディキャップ/年齢差など、多くのボーダーを超えたクラブになることをめざしています。そこでは、トークンを利用した取り組みにより、クラブと支援者、支援者と支援者の間に新たな関わり方が生まれています。

四方 健太郎

四方 健太郎
Kentaro Yomo

鎌倉インターナショナルFCオーナー。人材育成会社 株式会社スパイスアップ・ジャパン シンガポール法人代表。2002年外資系コンサルティング企業に入社後、通信・ハイテク産業の業務改革・ITシステム構築等に従事。2009年に独立し、南アW杯出場32カ国を1年かけて巡る『世界一蹴の旅』へ。現在はシンガポール在住で、東南アジア諸国と日本をフィールドに活躍中。
鎌倉インターナショナルFCウェブサイト https://kamakura-inter.com/

フランスワールドカップの原体験からサッカーチームを立ち上げることに

—サッカーとの関わりについて教えてください。

四方:僕はもともとサッカーが大好きだったのですが、1998年に開催されたフランスワールドカップを現地で見ることができました。学生をフランスに招待するツアーがあり、大学に入学したての僕は運よく参加することができたのです。そのとき初めて海外に飛び出した僕にとって、ツアーに参加したほかの学生やさまざまなバックグラウンドを持つ現地の人たちとのつながりは、自分の世界を大きく広げるものでした。

その原体験があって、2002年の日韓大会、2006年のドイツ大会とワールドカップを回り、2010年の南アフリカ大会の際には、会社を辞めて1年かけてW 杯に出場する32カ国を巡るバックパックの旅に出ました。この旅を通して、サッカーは世界の共通言語だということを実感し、このパワーをスポーツの一競技に留めておくのはもったいないと思うようになりました。

—そんな四方さんが、なぜサッカークラブを立ち上げる ことになったのでしょうか?

四方:ちょうどそのころ、Jリーグがアジア戦略、海外戦略という言葉を使い始め、特に東南アジアへ、サッカーの投資が増えてきていました。それと同時に、東南アジアのマーケットに出ていきたい日本企業もたくさんあることに気が付きました。

そこで、サッカーを架け橋にした海外進出や国際協力ができないかと、いくつものJリーグのクラブを訪ねて話をしました。皆さん話には賛同してくれるのですが、なかなかそこから先には進まず、僕としては、チャンスがあるのに残念で。そんなとき「アイデアは面白いし、周りが動かないなら自分でやったらどう?」と言われてハッとしたんです。「自分でやればいいのか」と。そこで、インターナショナルな価値を作るクラブを始めようと、鎌倉インターナショナルFC、通称「鎌倉インテル」を立ち上げることにしました(写真1)。

[写真1] 鎌倉インターナショナルFC

[写真1] 鎌倉インターナショナルFC は2018年1月に設立。母体となるクラブはなく、一からの立ち上げとなった。現在、神奈川県社会人リーグ2部に所属している。

—クラブの立ち上げや運営について聞かせてください。

四方:ゼロからの出発なので、まずは「こういうことがやりたい」という所信表明をパワーポイントでまとめました。それをSNS に掲載して、賛同してくれるメンバーを集めていったのです。僕らのクラブは、おそらく本邦初のパワポから生まれたサッカーチームではないかと(笑)。2018年1月にクラブを設立し、神奈川県の社会人リーグ3部に参入、1シーズンで同リーグの2部(JリーグJ1に対してJ8に相当)に昇格しました。

一方で、チームの運営に関しては、鎌倉インテルには母体となる団体がなく、大きなスポンサーがいないので、知恵を絞ってみんなで作っていくことになります。その一環として、2021年7月から、“クラブトークン” を発行しています。ファンが株式のようなトークンを買ってクラブを支援するというものです(図1)。これまで、純粋な「応援」という意味での支援方法は、ファンクラブやクラウドファンディングといったものがありました。主にこれらは、1回限りの関係です。一方で、リターンを前提とした「投資」という支援方法もあり、株式を買い、保持しつつ、タイミング次第で売ることもできます。売る価格が買った価格より高ければ、利益を得ることもできます。クラブトークンは、応援するけどその価値もある程度保持された、「応援」と「投資」の中間のような存在です。

[図1] 鎌倉インテルのクラブトークンの概要

[図1] 鎌倉インテルのクラブトークンの概要。保有することで、クラブの運営の一部に関わる投票や、トークン保有者限定の特別な特典を受けることが可能となる。保有数に応じたリターン(特典グッズなど)も用意されている。クラブトークンの詳細は以下の四方氏のnote を参照。

[外部サイト] Web3体験型サッカークラブ支援とは?「応援」と「投資」のあいだ
https://note.com/yomoken/n/n0dca84b721d6

より深く関わり、より主体的に応援するための “クラブトークン”

—─トークンを買う人は、どのような動機から購入するのでしょうか?

四方:クラブトークンを買うことで、一方的に応援するだけではなく、出資者のようなより強い結びつきを感じることができます。もちろん、株式とは違って経営に参加することはできませんが、クラブが行う投票企画、例えば、ユニフォームやグッズなどのデザインに意見を反映することができたりします。そして、クラブの価値が高まるとトークンの価格が上がり、経済的なメリットを享受できる可能性もあります。トークン価格が低い初期から支援している人がメリットを享受できるインセンティブ設計になっているのです。もちろん、クラブの価値が下がれば、トークン価格も下がるので、支援者とクラブはより「運命共同体」としての関係性が深まりますし、より主体的にクラブを応援していくことになると思います。

—ゴルフ会員権を買うように、クラブと関わる権利を買っているようなイメージでしょうか?

四方:そうですね。例えば、関わりの事例として、昨年新しく自前のサッカーグラウンドを建設したのですが、その中に人工芝を敷くという作業がありました。この作業をすべて業者に頼むと結構なお金がかかってしまいますが、プロの指導があれば一般の人でも作業が可能とわかりました。そこで、支援者の方々に「こういう場があったとしたら、やってみますか?」と聞いたら、多くの人たちが集まってくれたんですね(図2、写真2)。「コーナーキックのこの芝生はオレが敷いた!」というように、自分たちが関わることでより楽しみが増えますし、「わたしたち」のグラウンドになるわけです。このグラウンドは、“みんなのスタジアム”という名前を付けていますが、一人ひとりが「わたしのスタジアム」についてSNSでつぶやくことで、宣伝のパワーが生まれたりもします。始めから狙ってやったわけではないですが、今風なのかなとも感じています。

もうひとつトークンのメリットとして、ファンの中でコミュニティを作ることができます。サイバー空間上でファン同士が集い、発行体であるクラブの選手やマネージメントと会話ができる。ファンとクラブの横、縦のつながりを提供できます。ファンとクラブの関わりの具体的な事例として、クラブが鎌倉ビールという地元のクラフトビールとコラボ商品を作るときに、ラベルのデザイン案を数種類用意して支援者の皆さんに投票してもらいました。商品を売り出す前のプロセスからトークンホルダーに関わってもらう。すると、自分たちが決めたデザインのビールを買おうという流れが生まれ、発売前からその商品のファンを作ることにもつながります。

[図2]  地域で作る「みんなのスタジアム構想」の概要

[図2] 地域で作る「みんなのスタジアム構想」の概要。地域とつながり、みんなで使いながらアイデアを集め、未来のスタジアムへと成長させていくプロジェクト。

[写真2] 「みんなのスタジアム」の建設

[写真2] 「みんなのスタジアム」の建設では、支援者が参加して人工芝の設置作業を行った。コストダウンの実現と共に、参加者には「わたしたち」のチーム、グラウンドという意識が生まれ、応援やPRにつながった。

「CLUB WITHOUT BORDERS」に向けて

—クラブトークンによるクラブと支援者の関係はとても興味深いです。では、支援者同士はどのような関係になるのでしょうか?

四方:トークンホルダーに対して、専用の電子掲示板のような場所を提供しています。一時期の電子掲示板は、荒れる印象があったので、管理が大変ではないかと危惧していました。一方で、こうしたトークンに関連するコミュニティを運営している人に聞くと、みんなで一緒に作っていく世界観があるとのことでした。半信半疑でしたが、やってみると実際にとても温かいコミュニティになっています。「わたしとあなた」ではなく「わたしたち」であれば、何か意見の相違があっても、建設的に議論して、落としどころを決めて前に進んでいけるんだと気が付きました。

—株式発行ではなく、クラブトークンにしたのはなぜでしょうか? クラブ内で反対意見はありませんでしたか?

四方:経営サイドからすると、一番の魅力は新しい形で資金調達ができることです。ほかのやり方として、株式投資型クラウドファンディングなどもありますが、そこまでやってしまうと経営上の意思決定などかなりセンシティブなところに支援者が入ることになります。一方、トークンならばそこまでの権限はありません。ちょうどいい温度感があり、「みんなで作る」というコンセプトとの相性もいいと思っています。

また、クラブ内でもそこまで反対はありませんでした。鎌倉インテルを運営する側として根底にあるのは、新しい技術や考え方、新しいムーブメント、そういった不慣れなことにもチャレンジしていこうというマインドです。「トークン?わからないからやめよう」ではなく、「わからないけど面白そう。やってみよう」という人が多く、そこは比較的やりやすかったです。逆に、既存のJリーグクラブだと、ファンクラブとの棲み分けや、スポンサーの思惑など、考えるべき要因が多く出てきます。その点、僕らはスタートアップだからこそ、動きやすかったのかもしれません。

—最後に、鎌倉インテルの今後について聞かせてください。

四方:まず、何より、チームとして強くなっていく必要があると思っています。サッカーチームとして強くないと説得力に欠けるからです。多くの人に鎌倉インテルを知ってもらうためには、強くなってJリーグに加入し、スポーツニュースに載ること。サッカーを架け橋にした多様性の実現、「CLUB WITHOUT BORDERS」というビジョンを達成するために、手段として勝っていくことは重要だと考えています。

鎌倉インテルを作って5年目ですが、その半分くらいはコロナ禍でした。国際的な活動はこの2年間できていません。今、ようやくパンデミックの終わりが見えてきて、もっと国境や属性のボーダーを超えて、国際化を進めていきたいと思っています。そして、このビジョンは鎌倉インテルのデジタルな取り組みとも相性が良いのではないかと考えています。


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