REPORT “ゆびよむ”してみた! - タブレット端末で実現する新しい読文に迫る -
現在、NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部では、人間の読文時の認知特性となぞり動作を利用した文章表示方式“Yu bi Yomu”の研究が行われています。文字をなぞると、なぞった文字が徐々に現れてくる。そのシンプルな原理から、豊かな情感や、相手の存在感を感じることができるのだといいます。本レポートでは、その背景に迫りたいと思います。

︙ 音声化するテキストコミュニケーション

  ショートメールやLine、Twitterのように短文メッセージを“ほぼリアルタイム”に交換するコミュニケーションのスタイルは、音声言語とよく似ています。このコミュニケーションスタイルは、スマートフォンなどのタブレット型端末とともに発展してきました。現在、文字の表示方法は、紙媒体と同じようにディスプレイ上に止まった文字を表示する方式が使われ続け、デジタルである利点を活かしきれていません。タブレット端末は動画を表示できますが、単純に文字を動かしたとしても、文章が非常に読みにくくなります。こうした欠点を補い、タブレット端末でしかできない動的な文字表示・文章表現を実現したのが“ Yu bi Yomu” です。

︙ Yu bi Yomuとは何か?

  “Yu bi Yomu”方式で提示される文章を見てみましょう。読者がディスプレイ操作をしない状態では、図1左のように文章がごく薄く表示されているだけで、そこに文章があることはわかりますが、文字を読むことは難しいです。読者が文章の文字の上をなぞると、図1右のようにその部分の文字が徐々に濃く表示され、濃く表示された文字は、一定時間後に徐々にもとの薄い表示に戻ります。つまり、“Yu bi Yomu”方式では、読者が指でなぞった部分の文字だけが現れ、消えていくことになります。読者は読みたい場所に自分から触れ、自分のなぞり動作によって文章が次々と生み出されるような読文を体験します。このような、時間的にも空間的にも連続するインタラクティブ性は、読者に「自分の働きかけから文章が生み出された」という自己関与感を与え、心理的な報酬を生みだすことが期待されます。

︙ 文字の現れ方・なぞり方で思いを深く伝える

  “Yu bi Yomu”方式では、動的な文字の現れ方、消え方によって文章の印象を操作することができます。たとえば、読者の触れた文字が数秒かけてゆっくりと表れ、消えていくと(図2上)、温かく柔らかい印象が文章全体に感じられ、一方で、文字に触れてから文字が1秒以内に急速に現れ、消えていくと(図2下)、文章全体に冷たくはっきりとした印象が感じられることがわかっています。さらに、個人のなぞり動作を記録して、その文章表示の様子を再生した「文章動画」は、なぞった人によって表示速度の緩急やポーズの取り方に差が出てきます。電報や年賀状など、定形の文章を使うことが儀礼上望ましいときに、これらの特徴を利用して文章動画を作成すると、送り手の思いをより深く伝えることができるようになると考えられます。

︙ テキストコミュニケーションの未来

  社会的な生き物である人間にとって、言葉はコミュニケーションを生み出す重要なものではありますが、言葉はそのメディアによって大きく機能や性質を変えます。現在でも、紙は物事を正確に伝えるために使用されますが、デジタルディスプレイ上に表示される文字にはより多くの可能性があります。文字表現に時間的な抑揚や余韻を生み出す“Yu bi Yomu”という文章表示方式は、より柔軟で人に寄り添うテキストコミュニケーションのあり方といえるのではないでしょうか。

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