身体性とリアリティの未来

渡邊淳司


NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員/本誌編集長

物理的な接触が制限される世界が始まり、そこから新たな考えや取り組みが生まれています。その際、身体性とそれを拡張するデジタル技術はどういった変化をするのでしょうか。その価値と可能性を探ります。

リアリティはどこにあるのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、世界中の美術館や博物館、エンタテインメントの場が営業を縮小、一時的な閉鎖を余儀なくされている中、新しい体験への模索が始まっています。例えば、自宅からロボットを遠隔操作し、美術館を自由に観て回れるツアーが行われています。鑑賞者は、テレプレゼンスロボットを動かしながら絵を至近距離から見たり、全体を眺めたり、家に居ながらさまざまな視点で鑑賞することができます。また、あるオンラインゲーム(「Fortnite」)内では有名アーティスト、トラヴィス・スコットのライブが行われました。ゲーム内にアーティストの巨大アバターが現れ、歌いながら地上のさまざまな場所や空へと瞬間移動するなど、バーチャル空間ならではの演出がなされました。そのライブには1000万人を超えるユーザーが参加したと言われ、現実の空間ではありえない人数が1つのイベントを体験しました。

このように、目の前の現実空間だけでなく、遠隔の空間、バーチャル空間と、私たちはいくつかの場所を行ったり来たりしながら、それぞれの場所特有のやり方でコミュニケーションをし、そこである種のリアリティある体験を享受するようになりました。しかしながら、私たちの物理的な身体は1つしかありませんし、現実空間である“今ここ”にしか身体は存在しません。現実空間が相対化される中で、身体性やリアリティをどのように捉えていったらよいでしょうか。東京大学の稲見昌彦教授にお話を伺いました。

誰かの現実(リアリティ)として描かれる未来

また、本号では、今回のテーマを考えるための方法論として、身体性とリアリティの未来をテーマとした「マンガ」の制作を依頼しました。マンガは、現実の制約をいったん取り除き、誰かのいきいきとした人生の一部として未来を描くことができます。抽象的な議論としてではなく、読み手が感情移入しながら未来を体感できるものです。近年、このようなマンガを使った研究アプローチが注目され始め、テクノロジーと社会の関係を問い直す研究領域*においても採用されています。本号では、漫画家、編集者、研究者と、多様なスキルと知見を持つ5名のチーム(竹ノ内ひとみ氏、宮本道人氏、安藤英由樹氏、森尾貴広氏、矢代真也氏)が制作した共作マンガ『いぬりてぃ』を紹介します。稲見教授のインタビューとリンクさせながら読んでいただくと、より深くお楽しみいただけると思います。

*科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTE X)「人と情報のエコシステム (HITE)」領域


目次


発行日 2020年9月1日
発 行 日本電信電話株式会社
編集長 渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
制 作 原 輝明(NAKED Inc.)
編 集 矢野裕彦 デザイン 小山田繭子(NAKED Inc.)、岩瀬知子(NAKED Inc.)



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