全日本フェンシング選手権大会サーブル決勝で実施

「共感の加速」による
2つの新しい観戦体験

アスリートに深く共感できること。それはスポーツ観戦における重要な要素です。NTT西日本グループは、心と体の共感を軸とした新しい観戦スタイルを、2021年11月に行われた第74回全日本フェンシング選手権大会で実施しました。今回は、その取り組みや成果についてレポートします。

共感をキーワードにした2つのプロジェクトを実施

NTT西日本グループがICTをサポートする第74回全日本フェンシング選手権大会が、2021年11月6日に開催されました。この大会では、同グループが「共感の加速」をテーマに、2つの新しい観戦体験のプロジェクトを実施しました。

そもそもスポーツにとって共感は大変重要なものです。例えば、観戦者は選手に共感することで、より熱く応援できるようになります。選手もそういった応援を受けることで、優れたパフォーマンスを発揮します。「共感の加速」とは、そうしたスポーツ観戦における共感をさらに深く、広く拡大する取り組みです。

共感には、「情動的な共感」と「認知的な共感」の2種類があるといわれています。前者は、悲しんでいる人のかたわらにいると自分も悲しくなるといった、身体に関わる反応を元にした相手との境界がなくなるような共感。後者は、自分と相手を分けた上で相手の視点に立ち、その人の感情を推測することによる共感です。今回は、情動的共感をめざす「なりきり体感観戦」、認知的共感をめざす「ウェルビーイングで出会う“ 推しアスリート”」というプロジェクトが実施されました。

プロジェクト1
自ら動くことが共感を生み出す「なりきり体感観戦」

「なりきり体感観戦」とは、遠隔から送られる触覚振動を用いて、観戦者がフェンシングの選手になりきり、より深く共感しながら試合を観戦するプロジェクトです。

具体的には、決勝が行われている東京・六本木ヒルズアリーナのピスト(フェンシングの競技台)の横に6本のマイクを設置します。そのマイクは主に、選手の足による床への踏み込みの音と、剣同士がぶつかる音を拾います。そして収録された音声はミキシングされ、静岡県沼津市にある施設「F3 BASE」に伝送されます。ちなみに沼津市は、「フェンシングのまち NUMAZU」というフレーズを掲げていて、フェンシングに力を入れています。F3 BASEはその拠点となっている施設で、代表チームの合宿を誘致したり、地元の子どもたちがフェンシングの練習をしたりしているところです。

また、フェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」という3つの種目があり、今回取り上げたのはサーブルの男子決勝戦です。サーブルは他の2つの種目とは異なり、突く以外に斬るという動作があります。そのため居合切りのようなバーンという踏み込みがあり、とても激しい振動が伝えられる種目といえます。

F3 BASEの観戦会場では、サーブル経験者である子ども2名が、モニターの前に、六本木で戦っている選手たちのように向かい合って立ちます。六本木からの音声は、2人が立つ台と手に持った剣の手元部分を模したデバイスに振動として伝わる仕組みになっています。なお子どもたちには、「自分の立っている側の選手を応援すること」、そして、「モニターで試合を見ながら、デバイスを持つ手を、応援している選手になったつもりで動かしてください」と伝えました。これによって子どもたちは、足元の振動から六本木の会場とつながっているような臨場感を感じると同時に、自分の手の動きに対して手元で振動が起きているような主体感を感じることになります。子どもたちは、足さばき、剣さばきといった応援している選手の身体的リズムを感じ、自分の体を通して再現する、つまり、選手になりきって、試合を観戦することができたわけです。

なりきり体感観戦
なりきり体感観戦

■「なりきり体感観戦」の仕組み
「なりきり体感観戦」では、東京・六本木の会場の試合の音を沼津市の観戦会場に伝送し、振動として提示する。向き合った2人の観戦者が、モニターで試合を見つつ主体的に手を動かしながら試合を観戦する。

「勝ててうれしかった!」選手になりきった子どもたち

試合後の子どもたちの感想には、「勝ってうれしかった」とか「負けて悔しかった」など、選手になりきって、勝敗を自分のことのように話すものが多くありました。このような“ なりきり” がうまくいった要因は、振動の提示方式以外にもいくつかあったようです。

体験者である子どもたちには、出場する選手の情報やどちらの選手に“ なりきる”のかといったことを前日に伝えておきました。そのためか本番では、自分が決勝戦に出るような緊張感を感じた子どももいました。

そして、観戦会場では、日本フェンシング協会前会長である太田雄貴氏が子どもたちのそばにいて、応援している選手が得点したときには「〇〇選手、やったな!」と、点を取られた時には「×× 選手、次どうする?」と、なりきった選手の名前を呼んで声かけをしていました。そういったことが、なりきる感覚をより強めていたようです。

なりきり体感観戦
なりきり体感観戦

沼津市の試合会場に設置された「なりきり体感観戦」の装置。足元の台と、剣の手元部分を模したデバイスが振動する。

なりきり体感観戦

会場では日本フェンシング協会前会長でもある太田雄貴氏が、子どもたちを決勝を戦っている選手として励まし、選手になりきる気持ちを高めた。子どもたちは応援する選手の名前が入ったビブスを着用して、選手の気持ちにより入り込んでもらった。

プロジェクト2
価値観に基づく共感をいざなう「ウェルビーイングで出会う“推しアスリート”」

認知的共感に関わるプロジェクト「ウェルビーイングで出会う“ 推しアスリート”」では、ウェルビーイング(一人ひとりの多様な幸せ)がキーワードとなりました。日々の生活におけるウェルビーイングは、一般の人々だけでなくアスリートにとっても重要です。そして、アスリートがウェルビーイングだと考えていることや、その背景にあるエピソードを知ることで、アスリートをひとりの人間として応援したくなる(“ 推しアスリート”となる)という、共感が加速される観戦体験をめざしました。

アスリートのウェルビーイングを可視化するために用いたのは、NTTの研究所が考案した「わたしたちのウェルビーイングカード」です。これはウェルビーイングの要因が書かれた27枚のカードで、この中から自分がウェルビーイングだと感じるものを3枚選び、ピックアップした理由やそれに関するエピソードなどを話すという使い方をしました。

女子サーブル決勝戦で相対する2名の選手が選んだカードは?

プロジェクトへの協力をお願いしたのは、女子サーブル決勝に進出した2名の選手です。江村美咲選手は、フェンシングの選手であった両親の影響を受け、小学校3年生の時に競技を開始しました。その江村選手が選んだ3枚のウェルビーイングカードは、[感謝][挑戦][思いやり]でした。それぞれ以下のような理由で選ばれました。

[感謝] 学生からプロになって、ますます感じるようになったことです。感謝の気持ちを持つと余裕も生まれ、機嫌良く過ごせます。

[挑戦] 早起きしての朝活に挑戦しています。以前からやりたかった英会話を始めたりして、行動に移すことの楽しさを感じています。

[思いやり] 動物が大好きで、保護猫を里親に運ぶボランティアに参加しました。人の力になれたとき、日常でも試合でも感じたことのない不思議な気持ちになれます。

次に髙嶋理紗選手。小学生のときに福岡のタレント発掘事業に参加、そこでフェンシングの才能を見出されたそうです。髙嶋選手が選んだのは[熱中・没頭][祝福][自然とのつながり]の3枚でした。

[熱中・没頭] 私は好きなことにすごく熱中するタイプ。最近はクロスステッチという刺繍にはまっています。細かい作業ですが集中して取り組んでいます。

[祝福] 祝福されるのは特別な時間です。例えば優勝したとき。多くの人からメッセージが届いて、私を見てくれている人がいることに気付かされます。

[自然とのつながり] 緑が豊かなところで育ったので、休みの日などは自然が多いところに行くのが好きです。リフレッシュできますね。

そして、決勝戦が行われた当日。六本木の会場では試合開始前に、ステージ上のモニターで2人が選んだウェルビーイングカードとそれに対するコメント、関連したスナップ写真などが紹介されました。そして会場を訪れた人には、詳細を説明したリーフレットも配られました。これにより、多くの観戦者が2人のことを理解し共感するきっかけとなったことでしょう。また中には、ウェルビーイングカードで可視化された優しい素顔とピストで繰り広げられた激しい戦いのギャップに驚いた人もいたようです。


女子サーブル決勝を争う2選手のウェルビーイング

わたしたちのウェルビーイングカード
わたしたちのウェルビーイングカード

江村美咲選手が選んだウェルビーイングカードは[感謝][挑戦][思いやり]。会場では、愛犬といっしょの写真や、朝活への挑戦や、ボランティアに参加したエピソードなどが紹介された。

わたしたちのウェルビーイングカード
わたしたちのウェルビーイングカード

髙嶋理紗選手が選んだウェルビーイングカードは[熱中・没頭][祝福][自然とのつながり]。夢中になっているクロスステッチや応援されることへの気づき、旅先で自然を満喫する様子などが紹介された。

一進一退の激しい試合となった決勝戦

一進一退の激しい試合となった決勝戦。2人のウェルビーイングが紹介されたことで、来場者は応援する選手の新たな一面を知り、気持ちを重ねて観戦に臨んだ。


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