REPORT 震えるほど自分らしい
福地 健太郎
福地 健太郎
明治大学総合数理学部 准教授
2004年、東京工業大学大学院情報理工学研究科を単位取得退学。2006年に博士号(理学)取得。2013年より現職。映像を主としたユーザーインタフェースや知覚心理学、エンタテインメント応用に興味を持つ。2002年FIT船井ベストペーパー賞、2010年日本VR学会論文賞受賞。

  私は、主に映像技術にもとづいたインタラクティブメディアの研究に従事しており、ゲームやインタラクティブ広告、舞台映像のための基礎技術をこれまでに手がけています。今年の夏からは株式会社NAKEDと、人を魅きつけるメディアの力を詳しく探っていくべく、共同研究を開始しました。8月末には2週間にわたる集中ワークショップを通じて、現場を知るプロと学生とがチームを組んで、インタラクティブ作品を制作、11月には小規模ながら展示会を実施し、来場者の皆様から貴重なご意見をたまわりました(写真1)。今回は進行中のプロジェクトからふたつほどご紹介したいと思います。

︙ 振動がもたらす“自分らしさ”

  共同研究が始まったきっかけの一つに、NAKEDの大屋氏と私とで打ち合わせをしているときに、「自分が書いた文字っていかにも 自分のものって感じがするよね。と、いうか、自分の名前って今まで一番たくさん書いている文字だよね」と盛り上がったという経緯があるのです。そこで、本プロジェクトでは、手書き文字に宿る“自分らしさ”をテーマにしています。
  以前より福地研究室では、ヘッドフォン端子に接続できる振動フィードバックつきのスタイラス「VibraPen」を開発しています[1]。振動フィードバックによって、たとえば、実際に紙に書いたときの振動パターンを再生することで、あたかも紙の上でスタイラスを走らせているかのように錯覚させることができます。
  これを利用して、手書き文字をストローク単位でバラバラにしてそれを再構成してアニメーション表示する、という作品を制作しました(写真2)。1ストロークずつ、書かれたときと同じ速度で描画されつつ、スタイラスが振動し音が再生されるのですが、このときに他人が書いた文字と入れ替えて再生すると、なんともいえない奇妙な感じを手の内に感じます。特に、自分の名前のように、書き慣れた文字だと奇妙さが強まるようです。目下はこの奇妙な感じが起きる要因を探るべく研究を進めています。

「響」と書いてあるのがわかりますか?

︙ 足で感じるエンタテインメント

  我々の研究室では以前より、デジタルスポーツの一環としてトランポリン運動を題材にした研究を行っています[2]。今回はこのシステムのエンタテインメント性を高めるべく、NAKEDの映像技術と組み合わせた作品を制作しています(写真3)。
  トランポリン運動は意外に奥深いもので、トランポリンのどの部分に着地したかを足の裏で感触を確かめながらジャンプを調整しないとうまく飛ぶことができません。ビョンビョンとテンポよく飛ぶにはどうすればよいか、その微妙な感覚をセンサで捉えることに現在取り組んでいます。

︙ 振動と記憶、フィードバック

  マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に、紅茶に浸したマドレーヌの味がきっかけとなって過去の記憶が一斉によみがえるという描写がありますが、それと似たようなもので、たまに自分の名前をひらがなで大きく書いてみたりすると幼い頃の記憶がおぼろげに立ち上がってくるときがあります。自分の名前を書いているときの運筆の癖や、コツコツとペンが触れる音のリズムにも、隠れたリズムにも、そうした記憶をくすぐる力があるように思います。その力を増幅したり改変したりすることができないか、という可能性にもまた興味を強く感じているところです。

[1] VibraPen: 簡易制御可能な高周波振動フィードバック機能を持つスタイラスの特性. 尾高 陽太, 福地健太郎: 情報処理学会研究報告 Vol. 2015-HCI-162.
http://id.nii.ac.jp/1001/00115449/
[2] 競創による動機づけ: 自分撮りによるトランポリン運動の促進システムの事例. 福地 健太郎, 助台 良之, 大野 悠人: 第22 回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS 2014) 論文集 pp. 115-120.
http://www.wiss.org/WISS2014Proceedings/oral/029.pdf