2050年をSFプロトタイピング
30年後の『ふるえ』
特集記事で未来予想
プロトタイピング協力:矢代真也(SYYS LLC)/駒﨑 掲(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
『ふるえ』が2050年にも発行されていたらどんな記事が生まれるのか、SFプロトタイピングしてみました。世は2020年生まれが活躍する時代。衣食住の素材やエネルギーなど、ほぼすべてが循環する社会で育った彼らは「∞(むげん)世代」と呼ばれています。目減りしたり消費したりする行為は超贅沢。物理移動も減り、さまざまな接触機会も失われた世界で、『ふるえ』の読者はどのような誌面を目にするのでしょうか。
「太古の記憶を呼び覚ます触覚」 2050年5月発行 Vol.208より
人類はアフリカからやってきたという。自分も知らない過去の記憶が人工素材によって蘇るハンカチ・パーソナライズサービス「LeafMe」が、∞世代を中心に話題だ。パーソナルデータバンクから任意の個人情報を送ると、祖先が太古の昔に住んでいた地域を解析。その場所に生えていた植物の構造を模したバイオミメティクス・ハンカチが送られてくる。中には、ユーカリやバオバブのような日本原産ではない植物も。個人の記憶にはないはずの触覚が、なぜか心を落ち着かせるという。太古の歴史とつながる触覚が生む、タッチデバイスで育った人々の心の動きを追った。
「振動がゲームの一部になっている状況を考えると、素材の触覚そのものがパーソナライズされたコンテンツになる時代も遠くないでしょう。素材と自分をつなぐ物語がいかに描けるかが鍵になりそうです」(編集部)
「ガムを噛んで社会とつながる」 2050年7月発行 Vol.209より
ガムを噛むことがマナー違反だった時代は遠い昔。今、∞世代を中心に、噛むことで社会に貢献するガム「バイト&コネクト」が広まりつつある。駅などの公共機関で配布されるガムが含有するセンサー粒子によって、口内から取得された個人のバイタルデータが提供される。献血で社会に貢献するのと同じように、データを提供する行為が社会貢献として定着しつつあるのだ。もちろん、取得されたデータは自身の健康管理にも活用可能。ストレスなどの精神状態もチェックできる。ガムを噛んでデータを取るという新しい習慣が持つ可能性に迫った。
「フェアトレード製品を食べることそれ自体が、社会に対する態度表明であるように、食はより社会的な意味を帯びていくでしょう。どこでも口内データが取れるガムは1つの可能性を示しています」(編集部)
「全ての感覚を“配信”する人気者」 2050年9月発行 Vol.210より
かつて動画配信者は、少年・少女の人気職業として君臨していた。2050年、移動が少なくなった結果、「テレライバー」という∞世代に人気の職業が生まれつつある。彼らは散歩や食事、さらには旅行といったコンテンツを体験し、その感覚を記録/編集して配信する。誰かの日常の一コマがやすらぎや新鮮な驚きを提供するのだ。自分の姿をさらしてしゃべる必要があった動画とは異なり、テレライブで重要になるのは「その人にしかない感受性」と「感覚を受け取る人への思いやり」だという。世界を感じる力で人気を集めるテレライバー5人に密着した。
「思えば俳人は、テキストを使って感覚イメージを湧き上がらせるテレライバーの始まりだったのかも。視覚と聴覚以外の感覚を配信できるようになったとき、どんな才能に注目が集まるのでしょうか」(編集部)