生きるために必要なこと

今号では「生きるために必要なこと」を特集のテーマとしました。やや大げさなテーマ設定ですが、その背景には「利便性や効率性を目指して発展してきた科学技術が、本当に私たち人間の生を豊かにしてきたのか?」という問いがあります。

AI分野の発展により、購買予測といったサービスだけでなく、人間の思考をシミュレートする試みまで行われようとしています。そうすると、AIに自分の仕事やコミュニケーションを肩代わりさせることもできるようになるでしょう。しかしそのとき、どこまでが「私」なのでしょうか?

また、環境の情報がどんどんデジタル化され、そこで未来シミュレーションが行われたり、自動運転サービスとの融合が図られたりする中、ひとりひとりが異なる身体を持つ人間、同じ人でも日々変わり続ける身体を持つ人間は、どのように環境と接続されていくのでしょうか? このときに必要になるのが、データとマテリアル、両方の特性を活かしたモノづくり、デジタルファブリケーションです。

テクノロジーの発展が臨界点を超えつつある現在、私たちの自己の捉え方、環境とのつながり方もアップデートする必要があるのかもしれません。そこで今号は、自己を捉え直し、環境との関わりを更新する糸口を求め、京都大学の出口康夫氏と、慶應義塾大学の田中浩也氏にお話を伺いました。哲学者である出口氏には、従来の、自己=「わたし」ではなく、氏が提唱する自己=「われわれ」という自己観で世界を捉えたときに、人々の生き方や社会のあり方、科学技術にどんな影響を与えるのか、哲学の側面から語っていただきました。また、3Dプリンタによるデジタルファブリケーション分野を先導する田中氏には、人間とマテリアルの関係をデータで捉え直す新しいモノづくり、その生活との接続についてお聞きしました。


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