「もの」のメディアから
「モノ」のメディアへ

渡邊淳司


NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員/本誌編集長

今号では、集合的メディア“SWARM”について取り上げます。SWARMとは何かという疑問の前に、そもそもメディアとは何か、まずその定義に立ち返って考察し、続いてSWARMについてインタビューで紹介していきます。

メディアとは何なのか?

「今、ここ」でないところに情報を伝えるためには、物質に情報を記録する必要があります。古くは石板に書かれた歴史物語や、紙に書かれた恋文、最近は、スマートフォンへの入力など、文字のパターンが物質に刻まれることで、それを保存したり、「今、ここ」にいない他者に伝えることができます。そして、この情報のパターンを構成する物質の様態のことをメディア(媒体)と言います。

例えば、何も書かれていない紙そのものは物質ですが、文字(記号)が書かれることでメディアとなります(図)。また、狼煙(のろし)は「煙が何回上るか」といった煙のパターンが情報となり、そのとき煙はメディアとなります。このように、言語をはじめとする情報は、保存したり伝えるためには、紙に書くなど、必ず何らかの物質によって実在化する必要があり、その際、物質はメディアとなるのです。

図. 文字が書かれることで紙が「メディア」となる。

メディアはメッセージ

言葉はどんな紙に書かれていても、その言葉の意味自体は変化しません。しかし、他者へのメッセージ伝達を考えたとき、何が伝えられたかという言語記号の意味(WHAT)だけでなく、それがどのように伝えられたか(HOW)という、メディアによって生じる感覚的なイメージも、その伝達に大きな役割を果たしています。物質的な存在であるメディアは、その保存や伝達の方法を通して感覚や身体にも働きかけるのです。例えば、同じ文章が書かれているものであっても、美しい便箋なのか、汚れた紙なのか、それがどんな紙(メディア)なのかによって、その手紙全体に抱く印象は異なるでしょう。

このような、情報伝達におけるメディアの特性を英文学者マーシャル・マクルーハン(1911~1980)は、「メディアはメッセージである」と述べています。また彼は、メディアはその物質性を通して身体に直接的に働きかけるという性質を強調し「メディアはマッサージである」という言葉も残しています。

今号では、テクノロジーよって変化したメディアのひとつの形態「SWARM」を取り上げ、その可能性を探ります。SWARMとは、映像を映し出すだけでなく自ら動き回るメディアであり、さらに、それが複数集まり有機的に連携しながら1つの大きな映像を映し出すこともできます。それは物体すなわち「もの」としてのメディアというよりも、生物的な「モノ」がメディアとして働いている状態だと言えるでしょう。


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