人と人、人と社会の
つながり方を更新する

渡邊淳司


NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員/本誌編集長

コロナ禍において、人と人の接触の意味が変わってきています。それは同時に、触覚に関わるテクノロジーの意味も変えていきます。今号では、触覚通信テクノロジー、そしてコミュニケーションのヒントを探ります。

ダイレクト・タッチがはばかられる時代

「現在、世の中の関心は、新型コロナウイルスをどう克服するか、そして経済をどのように立て直すことができるのかということに向かっています。しかし、このウイルスの蔓延が終息したとしても、その影響はいきなりゼロになるわけではなく、私たちの行動原理もこれまでとは大きく変わったものになるはずです。リモートワークやオンライン会議が標準になり、働き方のスタンダードが変化していくでしょう。多くの人が集まって熱狂を共有するスポーツやエンタテインメントのあり方も変わらざるを得ません。科学館や美術館の鑑賞の仕方も、体験型が減り、ネットワークの中での体験が模索されることになります。これまで当たり前だと思われていた行動原理が、当たり前ではなくなっていくのです。

それは、ひとつの大きな要請として、老若男女誰もが、場所によらずどこでも「衛生」に配慮しなければならない時代となったことによります。ウイルスという目に見えないリスクを扱わなければならず、コミュニケーションにおいてはダイレクト・タッチがはばかられる時代となったのです。これまでは、直接会って話すこと、直接触れ合うことがコミュニケーションにおいて重要とされてきましたが、必ずしもそうではなくなっていきます。

触覚通信テクノロジーが日常となる

このときテクノロジーができることは何でしょうか。これまで本誌で扱ってきたような触覚のテクノロジーは、直接触れることなく、今ここにいない人々に実感を届けることができます。デバイスやネットワークに媒介される間接的な触覚でありながら、それが映像と一緒に届けられたり、何らかの物語の中で使用されることで、その触覚に対してリアリティを生み出すことができるのです。

触覚を遠くの人へ届ける触覚通信。これまでは“直接触れる”ことにはかなわないと言われてきたテクノロジーが、むしろ、直接触れてはならない現在の環境においては必須のテクノロジーとなり、今こそ、どのように触覚を伝えるのか、その技術と体験設計が重要となるのです。

今号では、触覚の計測・提示、そして通信を介した触覚共有について名古屋工業大学の田中由浩 准教授に話を聞きました。リアルタイムに触覚を伝え合うことで、私たちの行動や認知はどのように変化するのでしょうか。そして、触覚通信テクノロジーは社会のつながり方をどのように変化させるでしょうか。コミュニケーションに基づく社会のメカニズムについて、社会科学の視点から明治学院大学の犬飼佳吾 准教授に伺いました。


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