「ゲーム」が社会課題を解決する

ふれあえない時代の
eスポーツの役割とは

新しいスポーツとしての認知度が高まりつつある「eスポーツ」は、アスリートと観客、社会をどのように結び付けているのでしょうか。自らも著名なゲームプレイヤー、オーガナイザーであり、NTTe-Sportsの副社長に就任した影澤潤一さんに話を伺いました。

影澤 潤一
Junichi Kagesawa

NTTe-Sports代表取締役副社長。1979年、東京都生まれ。2004年、筑波大学大学院理工学研究科を修了後、NTT 東日本に入社。仕事の傍ら格闘ゲームなどのイベント企画などを手掛ける。その実績を評価されNTT 東日本のeスポーツ事業立ち上げのプロジェクトリーダーに就任。2020年1月31日、NTTe-Sports 設立と同時に現職。

ゲームを「嗜む(たしなむ)」文化を持つ日本

—まず、eスポーツの現状について教えてください。

影澤:国内の市場規模は、2018年に約48.3億円、2019年は約61.2億円となり、成長率120%以上という推移で来ています(図)。2020年は新型コロナウイルスの影響があるものの、全体的には今後も成長していく分野だと考えています。世界的な規模はもっと大きなものとなっています。

図

図:出典:KADOKAWA Game Linkage
2019年の国内のeスポーツ市場規模は、前年比127%の61.2億円となっている。新世代モバイル通信「5G」の開始により、今後、モバイル環境でのeスポーツの活性化が予測されている。

—世界的なeスポーツの潮流の中で日本のeスポーツはどのように位置づけられるでしょうか。

影澤:eスポーツは欧米を中心に発展してきたという経緯もあり、ゲームのジャンルでは銃を撃ち合うFPS(First-person shooter:一人称視点の3Dシューティングゲーム)やMOBA(Multiplayer online battle arena:複数プレイヤーによる陣取りゲーム)が活発で、高額な賞金を懸けた大会やプロリーグがあります。ゲームタイトルも高性能なPCゲームが主流で、どちらかというとプレイヤーは時間とお金に余裕のある人々が中心です。一方の日本ではというと、もともと誰でもゲームを嗜む(たしなむ)土壌があって、プレイヤーも多く、ゲーム大会も盛んに開かれていました。ただし、高級なPCよりも比較的安価な家庭用ゲーム機やスマホゲームが流行したことやゲームセンターの存在があり、欧米のようなeスポーツはこれまで発展してきませんでした。その背景の一つとして、法律(景品表示法)の制約で高額賞金を懸ける大会が難しかったこともあります。これを欧米のeスポーツの目線から見ると、日本は結果的に「eスポーツ後進国」ということになってしまいますが、ゲームを通じてプレイヤー同士が切磋琢磨するという文脈は、日本でも綿々と受け継がれていますので、僕自身は「後進国」であるとは必ずしも言えないと思っています。

—「嗜む」という表現が印象的でした。フィジカルなスポーツでは筋肉が付くとか健康に良いという機能的な効果が期待されますが、eスポーツでは個人の心身に対してどのような影響があるでしょうか?

影澤:例えば、難しいゲームをクリアしようとしたり、相手に勝とうとすることは、課題解決の能力や判断力を鍛えることにつながります。相手に勝つことで達成感を感じたり、リフレッシュできることもあるでしょう。また、「ゲーム」は共通の基盤を通じて他者とコミュニケーションを取るためのツールであり、プロジェクトマネジメントの能力もゲームによって培われるものだと思っています。このように、ゲームから得られるものは大きいと思います。

eスポーツのトップアスリートたち

—フィジカルなスポーツとeスポーツ、影澤さんから見て何が同じで、何が違うのでしょうか? eスポーツは競技としてどこにメリットがあるとお考えですか?

影澤:まず、「スポーツ」という言葉の捉え方が国内と海外では大きく違うという背景があると思います。日本では学校教育の影響もあって、スポーツは「体育」のように身体を動かすことが必須というイメージが根強いです。ゲームはスポーツではないという考えですね。一方で、海外ではあるルールに沿って勝敗を競ったり楽しみを求める活動全般を指すのが一般的です。僕自身はこの考えに近く、eスポーツは電子的なゲームを用いる競技や娯楽のことを指し、元々のスポーツという言葉の意味に含まれると考えています。

また、フィジカルスポーツでは公平性を保つために、多くの場合は体格や年齢、身体的ハンディキャップなどでクラスが分かれてしまいます。eスポーツではゲームの種類にもよりますが、その違いを埋めることができ、いつでもどこでも誰もが“同じ土俵”に立てるというのが大きいかもしれません。

—イベントに参加して入賞するようなeスポーツのアスリートたちは国内では何人くらいいて、普段どのような暮らしをされているのでしょうか?

影澤:ゲームの種類が多く、プロの定義も難しいのですが、何らかのチームに所属したりスポンサードで活動するという意味では1000人程度ではないでしょうか(写真1)。特定のゲームタイトルに関してはプロライセンスが発行されることがあり、そちらはおそらく200人くらいです。eスポーツの選手たちはアスリートのような要素もありますが、同時にタレントとしての要素も持っています(写真2)。特に国内では大会の賞金だけで生活できるのは一握りで、スポンサーを集めるために自分のタレント性を活かしてゲームの配信などで視聴者を集めています。収益源はWeb広告や「スパチャ(Super Chatの略、YouTubeのギフティング機能の一種)」で視聴者から収入を得るというケースがあります。ただし、単にゲームが強いだけでは視聴者は集まりませんので、やはりそこには人としての魅力とゲームの面白さを伝えていく活動を普段からされている方が多いです。

写真1

写真1:eスポーツでは格闘やパズルゲームなど短時間で勝敗が決する対戦ゲームやタワーディフェンスゲームのような「RTS(Real-time Strategy)」など、ジャンルやゲームタイトルの種類はさまざま。

写真2

写真2:eスポーツのプレイヤーにはゲームそのもののテクニックだけでなく、観ている人を引き付けるタレント性が求められつつある。

賞金1億円超えの大会も開かれる

—そうしたeスポーツのトッププレイヤーたちを、周りの人たちはどのような感覚で見ているのでしょうか? また、注目されているのはプレイヤー自身か、それともゲーム画面の中で動いているアバターなのでしょうか?

影澤:そこは観る側の視点によって変わるところですが、まず多くの場合、スタートになるのは「人」です。その人がどのようなプレイをしているか、そのプレイがどれだけすごいのかが分かってくると、「この人はすごい!」と関心を持つようになります。一方で、最初は誰か知らなくても画面の中のキャラクターの動きのすごさに驚けば、「これを操作しているのはどんな人だろう」という関心の持ち方もあって、そこからプレイヤーとしての人気が出てくる循環もあります。

—その動きのすごさというのは、観ている側もそのゲームを知っていなければ分からないのでしょうか。

影澤:ゲームの内容を知る一歩前の段階もあると思っています。それは野球のルールを知らない人でも、「とても速い球を投げ、それをバットで打つということはすごい」という感覚は共有できます。ゲームでも車のレースで何台ごぼう抜きしたとか、一瞬にして何人も相手を倒したというシーンを観れば「ルールは分からなくても、今起きていることはすごいことだ」と気付くでしょう。もちろん、ルールやゲーム内容を知っていればより深く共感することができます。そのためには野球がそうであるように、コメンテーターがプレイの細かい部分の動作を解説などでアシストすることが必要です。eスポーツではこれをより視覚的に分かりやすい作りにしなければならないと考えていて、ゲームメーカー側もアクションに派手な演出を入れるとか、プレイ内容を自動的に解析して映像をカットインさせるなどの工夫をしています。すごさの理由が分かれば、そこからルールを覚えようという人も出てきますし、それをしたプレイヤー自身に興味を持ってファンになっていく流れは、スポーツもeスポーツも変わらないのではないかと思っています。

—スポーツの人気度合いを競技場への動員数やTVやネットの視聴者数で測るという捉え方もありますが、国内だと大きなイベントはどのくらいの規模なのでしょうか?

影澤:参加人数という意味では1回に6000人が集まる規模のイベントも出てきて、賞金額も1億円を超えるものも出てきました(Cygamesが配信するオンラインカードゲーム「Shadowverse」の国際大会)。いよいよ欧米や韓国、中国の大会に匹敵する1万人参加も見えてきた、というところに新型コロナウイルスが来てしまいました。スポーツ全般に言えることですが、大きな会場で集客数を伸ばしていくという方向性では今後難しくなっていきますし、僕たちのeスポーツ事業としても戦略を見直したところがあります。今後はやはりTVやネットでの配信にもっと力を入れて、インフルエンサーを起用するなどして普段はeスポーツに興味を持っていない人にも観ていただける機会を作ること、そしてゲーム以外の分野である、例えば、教育や観光のような産業と絡める企画を立てて草の根的に広めていくことが必要かと思っています。

eスポーツで地域の課題を解決する

—御社は2020年8月、秋葉原UDXに「eXeField Akiba(エグゼフィールド アキバ)」というeスポーツの交流施設をオープンしました。新型コロナウイルスによって活動に影響を受けたり、それに関連して事業内容を見直したところはありますか?

影澤:もともとパーソナルコンピュータやゲーム、アニメ文化の発信地であった秋葉原にシンボルとしての施設を作り、eスポーツイベントを開催していくというのが第一の目標としてありました。しかし、建設の途上で新型コロナウイルスが蔓延し、来場者は当初の計画の6割から7割減が予想されました。そこで、施設のコンセプトを大きく変更して、3つの要素を盛り込んだ施設にしていくことにしました(写真3)。1つはこの場所を「配信スタジオ」の機能に特化していくこと、2つ目はeスポーツ施設の「ショールーム」として、ここで作っているものやどんな人が何をしているのかを丸ごと見せて、僕ら自身がソリューション提案していくことです(写真4)。さらに、3つ目として最新の技術やサービスを通じて次の研究テーマに昇華させていく「ラボ」的な機能を盛り込んだ施設へと進化させました。

—むしろ、一般的なeスポーツのイメージの枠を超える施設を目指しているのですね。

影澤:eスポーツを筆頭にした最先端のイベントスペースであり、NTTグループならではの回線の強さを生かした配信設備でもありますので、ビジネスユースではプレゼンやウェビナー、商品発表会など、さまざまな用途で利用できます(写真5)。そして何より、地方でeスポーツの拠点が展開されていった際、eXeField Akibaはそのハブ施設として機能するようにしていきたいと考えています。

写真3-1
写真3-2

写真3:「eXeField Akiba」は、ICTとeスポーツを通じた新しい文化・社会の交流施設として秋葉原UDX内に開設された。eスポーツ動画配信スタジオ、最新ICT 機材のショールーム、次世代eスポーツ関連技術のラボ施設としての要素を兼ね備えている。

写真4

写真4: 現在のeスポーツを快適にプレイするには、高性能PCと低遅延のネットワーク環境がほぼ必須。eXeField Akibaには、最新機材と推奨環境のショールーム的な役割もあるという。

写真5

写真5: eXeField Akibaではゲームイベントの動画配信などが行われるスタジオとしての機能を備えている。eスポーツに限らず、さまざまな用途で利用可能。

—事業目的にも地域社会の課題解決を挙げてらっしゃいましたね。

影澤:今に始まったことではありませんが、地域の元気がなくなってきていて、若い人が地方から離れていくという課題が見えていると思います。そこで、若い人たちに届くコンテンツとは何かと考えたとき、eスポーツに白羽の矢が立ったという経緯があります。実際にeスポーツと通信は関係が深く、親和性がとても高いものです。そしてプレイをするのも誰かのプレイを見るのもネット経由でできますし、コロナ禍で人が集まれないという時代性にもマッチしています。これまでスポーツを含めたエンタテインメントでは、イベント集客によって地域経済を含めた活性化を狙ってきました。しかし、それが難しいとなると、今度はそれぞれの地域からゲームを通じたイベントをネット配信することで、プレイ内容だけでなく、その地域にはどんな優れたスタープレイヤーがいて、その場所がどんな魅力のあるところなのかを広く知ってもらう良い機会が生み出せるようになると考えています(写真6)。

—eスポーツというと誰とも合わずに画面越しに行われるというイメージがあったのですが、実はそうではないリアルとつながる部分にもeスポーツの価値があるということでしょうか?

影澤:そうですね。ゲームとは結局のところ、人と人のコミュニケーションツールなのです。顔の見えない相手とただゲームをするのであればCPU対戦と同じで、ネットワークでつなげる意味もありません。人には好きなものを通じて他者とつながりたいという根源的な欲求があります。これはオンラインゲームイベントで何千万人が一緒に体験できるようになっても、VRアバターとして大会を見たり参加できるようになっても、本質は変わらないでしょう。ただ、個人的には、VRではリアルで人と会う体験に完全には置き換わらないと感じています。普段SNSやゲーム空間でこれだけコミュニケーションしても、なぜ人と会ったほうが良いと感じるのか、その点はもっと深く研究していく必要があるように思います。そこが解析されれば、現在のVRやeスポーツを始めとする多くのイベントに欠けている部分が見えてきて、新しいステージに進めると思います。その意味でも新型コロナウイルスの蔓延は、多くの人がそういったことを改めて考える機会になったという面はあるでしょうね。

写真6

写真6:eスポーツとスポーツの大きな違いに、コンピュータゲームでは開発したゲーム会社が権利を持っていることが挙げられると語るNTTe-Sports の影澤潤一氏。NTTe-Sportsとしては、ゲームコミュニティや地域との橋渡しを通じてeスポーツの標準化に向けた流れも生み出したいと考えているという。


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