地域コミュニティにおける
他者とのつながりのデザイン

受動性の中から能動的な行動が生まれていく

Season 6を迎えた『ふるえ』は、テーマを「Wellbeing with Haptics」とし、触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌として新たな一歩を踏み出します。身体的に触れることだけでなく、心に触れて満たされるウェルビーイングの可能性を同時に探っていきます。ウェルビーイングを考える上では、社会的な関係性が充実していることが重要です。地域コミュニティデザインを専門とする坂倉杏介さんに、官民共同で運営されている「芝の家」プロジェクトや大学と地域の取り組み「おやまちプロジェクト」から見えてきた他者やコミュニティとの関係性のほか、コロナ禍で得られた視点についても話を伺いました。

坂倉 杏介
Kyosuke Sakakura

東京都市大学都市生活学部 准教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。三田の家LLP 代表、一般財団法人 世田谷コミュニティ財団理事。

インフォーマルな関係をつなぎ直す試み

—坂倉さんのご専門であるコミュニティマネジメントについて教えてください。

坂倉:人と人とのつながり、関係性を変えていくことで一人ひとりが生きやすい環境をつくっていくための研究をしています。これは建物を造るようなハードの話ではなく、そこで暮らす人を中心としたソフトの領域です。現代は、SNSなど知らない人とつながるためのテクノロジーは発達していますが、地域におけるつながりを構築することが難しい時代でもあります。そして、そのつながりの欠如が社会のさまざまな不具合を生んでいると考えていて、緩やかな関係性を実社会でどうつなぎ直すかということについて実践的に取り組んでいます。

—具体的にはどのような取り組みでしょうか?

坂倉:いくつかありますが、港区と慶應義塾大学が共同で実施している「芝の家」プロジェクトでは、コミュニティづくりの拠点を設けて、そこを訪れるさまざまな人たちがどのような体験をして行動や価値観がどのように変化するのかを調べています(写真1)。

写真1 芝の家
写真1 芝の家

写真1 地域をつなぐ交流の場づくりプロジェクト「芝の家」。毎週火曜から土曜にオープンし、曜日によって語らいの場や子どもの遊び場といった多面的な活動の拠点となっている。
http://www.shibanoie.net/

—なぜ、芝の家のような施設をつくることになったのでしょうか?

坂倉:近代都市で社会空間をつくろうとすると、土地としては民有地と公有地しかありません。民有地は家賃などの経済原理で動いていて、その点を解決する必要がありますし、公有地は目的を持った箱モノとしての施設が基本です。世代や所属に関わらず多くの人が訪れ、自分たちがやりたいことをするには、そのどちらでもない空間が必要でした。

—「誰でも」ということですが、実際に芝の家にはどんな人たちがどのようなきっかけ、目的で訪れるのですか?

坂倉:子どもから高齢者まで、地域住民や港区に在勤・在学の人も自由に縁側から出入りするように訪れます。区の事業でもあるので公知されていますが、多くはたまたま通りかかって「何だろう」と興味を持った人ですね。メンバー構成は偶発性によるものです。

訪れる人達は具体的な目的を持って集まったわけではないのですが、過ごしているうちに顔見知りが増え、次第に能動性が引き出されていきます。その結果として工作のワークショップや手芸教室といった活動が生まれます。レストランが食事する場所であるように一般的な「空間」には明確な目的や行動規範があるのですが、芝の家は規範をあえて外しています。それによって創造性を発揮するための空間として機能しているのが大きな特徴です。根底には、訪れる人々の“ありよう”を受け入れ、感情や思いを認める姿勢をスタッフが率先して示すなどの工夫があります。他者の評価に左右されず動けることで自分らしさを見出し、その過程で生き生きと活動する姿がよく見られます。もちろん、活動に興味がない人がそこにいてもいいわけです。

—目的を共有しない他者同士が集まる中で自分の居場所が生まれ、自分が本当にやりたいことが見えてくるという過程は興味深いです。このようなインフォーマルなコミュニティづくりの試みはほかにもあるのですか?

坂倉:世田谷区尾山台では、周辺の住民や商店会、東京都市大学の学生らが集まって「おやまちプロジェクト」という取り組みを行なっています(写真2)。同じまちに暮らしながらもこれまでつながっていなかった人たちが出会うことで、子ども食堂やボードゲームの会など、いくつもの活動が生まれています。

写真2 おやまちプロジェクト
写真2 おやまちプロジェクト

写真2 「おやまちプロジェクト」は、東京・世田谷区尾山台付近の住民のほか、学校や商店、大学といった地域に関わるさまざまな人々が集まってつながり、お互いのことや地域のことを知りながら多彩な活動を行っている。地域を盛り上げながら、地域コミュニティの可能性を探る取り組みだ。>

“ 他者”との関係性から見えてくる自分

—芝の家の取り組みから、共同体での自己と他者の関係などわかってきた部分は何でしょうか?

坂倉:芝の家では「より良いまちづくり」のような全員に共通する目的も関係性もないため、かえって相手のことを気にしすぎない状況が生まれていました。一見矛盾しているように見えるかもしれませんが、何となく集まっておしゃべりして自由に過ごしているうちにまちづくりに寄与するような活動性が高まってきます。

—最初からやりたいことがあるかどうかが、必ずしも重要ではないのですね。

坂倉:そうです。まずは自分の気持ちや体調に正直に、いたいようにいられる「心理的安全性」が確保されている場であることが重要で、そうした場を何度も訪れることで所属感や役割が生まれてきます。そして次第に自分のやりたいことを生き生きと実現できるようになるんです。面白いのは、その過程に他の参加者との対話や協働が大きく影響すること。自己実現のためには他者との関係性の深まりが必要なのです。この共同性と自己実現の発展の関係性モデルは論文にまとめています(図)。このモデルの現場へのインプリケーションは大きいと思われます。

図 共同行為における自己実現の段階モデル

マズローの欲求段階説を用い、自己実現と共同性の発展に伴って生じる参加者の行動変化を説明した図。「『共同行為における自己実現の段階モデル』を用いた協創型地域づくり拠点の参加者の意識と行動変化の分析」(坂倉杏介・保井俊之・白坂成功・前野隆司/地域活性研究 6、 96-105、2015)より。

—コミュニティにおいて、人はどのようにして主体的に動きだすのでしょうか?

坂倉:一般的な住民参加のまちづくりでは、「問題意識を持っている担い手を見つけよう」というところから始まりがちですが、現実にはなかなかそういう人はいません。実際に調べてみると最初からリーダーであった人はほとんどいなくて、何らかの偶然の縁でその活動に関わった結果、自分の中で問題意識が明確化して積極的に活動するようになったという場合が多いのです。まず関係性ができていって、そこから目的を持つ人や目的を共有するチームが内発的に生じるというのが、持続的なコミュニティのポイントです。本人の能力や能動性だけでなく受動性の中から成長していく自分というのも大事だと思っています。

つながりを求める本能

—新型コロナウイルスのまん延は、地域コミュニティ活動にも大きな影響を与えたのではないでしょうか?

坂倉:芝の家も昨年は3カ月ほどの閉鎖を余儀なくされ、このままコミュニティがなくなってしまうことを恐れていました。しかし実際には、オンラインでつながれる人はそれを利用して新たな活動を始め、それができない年配の方などは電話による連絡でつながりを維持していました。よくコミュニティには「場」が必要だと言いますが、人間にとっては「つながり」こそが本質で、たとえ場が失われても、そのとき使える手段によってコミュニケーションを続けようとする社会性は本能的なものではないかと感じました。

—主に都市部における社会関係の再構築は新たな局面を迎えたと言えそうですが、コミュニティデザインの考え方にも変化はありましたか?

坂倉:1995年の阪神・淡路大震災は「ボランティア元年」と言われますが、東日本大震災の2011年を私は「コミュニティ元年」と呼んでいます。2020年のコロナ禍は、まちづくりやコミュニティデザインにおけるウェルビーイングに目が向く新たなきっかけとなるかもしれません。これまでのまちづくりは、経済成長や人口増加、利便性、施設の充実などに目を向けていましたが、暮らしている人のウェルビーイングこそが大事で、そのためには地域とのつながりが欠かせません。今は「ワーケーション」や「リモートワーク」のような表面的な話題が先行していますが、暮らし全体のウェルビーイングを高めるには、良好な関係性や自己効力感・達成感を得られる活動、自然や歴史とのつながりなど多様な関係が得られるような地域にしていくことが大切です。

—その中でオンラインの果たす役割は何でしょうか?

坂倉:現状は、さまざまな活動がオンラインになっていく中、関係性を持てる人と持てない人の格差は広がりつつあります。オンラインによってこれまでは乗り越えられなかった物理的な距離を超えて出会える人たちがいる一方で、やはり今の技術では伝送できる情報量が不十分なこともあり、社会的に孤立している人のケアが難しいという問題が顕在化しています。こうした問題を少しずつ解決する技術開発は重要です。それと同時に、オンラインのツール(メディア)は手段であって、コミュニケーションの近接性や濃さ・薄さによってうまく使い分けるリテラシーも重要です。使う側の「人間の知恵」も進化することが必要で、たとえば誰もが居心地良くいられるためのオンラインのファシリテーションや、対面とオンラインのハイブリッドによる地域運営などが進化していくと思います。

コロナ禍の2020年は、特に多くのリモートワーカーが新たな地域観を得た1年だったと思います。その経験の共有を通じて、ウェルビーイングな暮らしとは何かという議論が深まることで、地域の共感的・創造的な関係が生まれるような技術とリテラシーが進化することを期待しています。


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