北澤 豪がめざす
「ごちゃまぜ」の共生社会

― 試合でゴールするだけがサッカー選手の仕事じゃない―

Jリーガーとして、そしてサッカー日本代表としてフィールド狭しと走り回った北澤 豪氏。同氏は今、「日本障がい者サッカー連盟」の会長として“ 走って” いる。そこでめざしているのは、障がい者サッカーの普及や強化だけではない。さまざまな人が共生できる「ごちゃまぜ」な社会を、スポーツを通して実現することだ。

北澤 豪
Kitazawa Tsuyoshi

1968年東京生まれ。本田技研工業サッカー部を経て読売クラブ(現 東京ヴェルディ)で活躍。サッカー日本代表としても国際Aマッチ59試合に出場する。引退後は社会貢献活動などにも取り組み、日本サッカー協会理事や日本障がい者サッカー連盟会長などを務める。

元日本代表だからこそ感じる
障がい者サッカーのすごさ

—北澤さんが会長を務める日本障がい者サッカー連盟(JIFF)について教えてください。

北澤 豪氏(以下、北澤):連盟は、目に障がいがある方の「日本ブラインドサッカー協会」や切断障がいの方の「日本アンプティサッカー協会」など、7つの障がい者サッカー団体[※1]で構成されています。それぞれ特別なルールはありますが、ボールを蹴り、チームで相手ゴールをめざすサッカーという意味では共通です。「サッカーなら、どんな障害も超えられる。」を連盟のスローガンとして掲げています。2017年度には、団体ごとに異なる日本代表チームのユニフォームを統一しました。

©JIFF

日本障がい者サッカー連盟(JIFF)は7つの競技団体を統括している。各団体によってルールやこだわりなどは異なるが、サッカーをプレーするという目的は同じ。JIFFでは2017年、日本代表の統一ユニフォームを用意。いずれサッカー日本代表と共通のユニフォームとなるためのステップにしたいと、北澤氏は語る。©JIFF

—─プロの選手だった北澤さんにとって、障がい者サッカーの印象はどのようなものでしたか?

北澤:それぞれのすごさや、面白さがありますね。最初は正直、「見えないのにそこまでやれるの!」とか「片足でプレーしているのにオレより強いシュートが打てる!」と、身体能力に驚かされっぱなしでした。電動車椅子サッカーでは、金属製のフレームで“ 柔らかいボールタッチ” ができたりと、技術的にもレベルが高いんです。また、脳性麻痺の方たちのサッカーではゴールにたどり着くまでが大変なので、プレーヤーも応援者もシュートが決まったときの喜びがすごく大きい。サッカーの原点にあらためて気付かされる思いでした。

—運営面で力を入れていることは何でしょうか?

北澤:障がい者サッカーを「見てもらえるスポーツ」にすることですね。お客さんに来てもらう、メディアで配信されるなど、見てもらうことで収益を得られるようにします。そうすることで、選手は見られているという意識でプレーし、パフォーマンスが向上するという良い循環が生まれます。もちろん、お金を払うほどではないと思う人もいるかもしれませんが、実際の試合を見たら、そのすごさや面白さは十分に感じられるはずです。スポーツを観戦することで人は心を動かされます。しかし、それはプレーヤーが健常者であるか障がい者であるかに関係はありません。

©日本アンプティサッカー協会
©日本電動車椅子サッカー協会

アンプティサッカー(切断障がい)と電動車椅子サッカーのプレーの様子。それぞれの障がいに合わせてルールやプレー方法が異なる。


[※1]日本障がい者サッカー連盟を構成する7団体:特定非営利活動法人 日本アンプティサッカー協会(切断障がい)、一般社団法人 日本CPサッカー協会(脳性麻痺)、特定非営利活動法人 日本ソーシャルフットボール協会(精神障がい)、特定非営利活動法人 日本知的障がい者サッカー連盟(知的障がい)、一般社団法人 日本電動車椅子サッカー協会(重度障がい等)、特定非営利活動法人 日本ブラインドサッカー協会(視覚障がい)、一般社団法人 日本ろう者サッカー協会(聴覚障がい)https://www.jiff.football/

サッカーに限らず
スポーツに求められているもの

—スポーツを取り巻く環境として、日本と海外ではどのような違いがあるのでしょうか?

北澤:Jリーグが始まって28年たち、日本でも地域密着型のスポーツという考え方が浸透してきました。一方、海外では何百年も前から、スポーツをする人、スポーツを見る人、そしてスポーツを支える人といった、スポーツを通した人と人のつながりが社会に根付いています。

—英国プレミアリーグの元監督アレックス・ファーガソン氏は、チームがゴールを決めたとき、最初に喜びを共有するのがベンチの用具係の人であったというエピソードもあります。

北澤:はい。ほかにも、ケガで休んでいた選手が復帰して得点を決めると、真っ先にドクターのところに駆け寄ったり。スポーツでは、そういった人とのつながりを学ぶ、いわば心のトレーニングも重要なんです。例えば、練習できるのは、家族の支えがあるからだし、練習場がある地域の人たちの協力があるからです。それがわかれば、何のためにプレーしているのか考えるようになります。試合でゴールするだけがサッカー選手の仕事ではないですからね。プレーを通して社会や周囲の人々に貢献することも、重要な役割です。このことは、特に子どもたちに伝えていきたいですね。スポーツを通して心を育てることができれば、社会に出てからも役立つはずです。

—北澤さんがスポーツの社会的な役割に目を向けるようになったきっかけは何でしょうか?

北澤:現役時代、身近にブラジルやアルゼンチンの選手がいましたが、そういった国の選手は「サッカー選手になって、両親に家や大きなテレビを買ってあげたい」といった目標を持っている人も多いんです。日本では「サッカー選手になりたい」と思って選手になる人が多いんですが、彼らのサッカーの目標が家族を幸せにすることだと聞いてハッとさせられました。また、子どもたちや地域との触れあいにも積極的な選手も多く、それによって国や世代を超えて人がつながっていくところを見てきたことも影響が大きいと思います。

団体競技の醍醐味
チームプレーがもたらすもの

—サッカーといえばチームプレーですが、北澤さんが所属していたヴェルディは1人1人の個性が強いチームというイメージもあります。

北澤:実際そうでしたね(笑)。しかし、チームとしてはまとまっていました。各自が自分のやりたいプレーをするだけではなく、仲間へのサポート、特に誰かがミスしたときのフォローアップが、とにかく早いんです。ベテランの選手も含めて、全員がそうでした。

—北澤さんの、圧倒的な運動量でどこにでも顔を出すというプレースタイルは、チームからの影響もありますか?

北澤:僕のそんなスタイルも、仲間をフォローし、人のためにプレーするメンバーがそろっていたヴェルディというチームに教えてもらったと言えます。現在のJリーグを見ても、強いチームはフォローアップが早いですよね。そういった環境にいるので、サッカー選手をはじめとするアスリートは、誰かのために何かをするというメンタリティが養われていくのだと思います。それは、スポーツでは優れたチームの理由ですし、良い社会にもつながる部分だと思います。実際、国内外のアスリートや元アスリートには、社会貢献を義務ではなく、当然のこととしてやっている人がたくさんいます。

スポーツをきっかけに
「ごちゃまぜ」の社会をめざす

—北澤さんは障がい者サッカーについて語る際に「ごちゃまぜ」というキーワードを使われているのが印象的です。

北澤:障がい者といっても多種多様ですし、きちんと説明しようとすると専門用語が多く、とても複雑なことになってしまいます。一方で、子どもを含め、すべての人たちにとってわかりやすい言葉を使っていくのが大事だと思っていて。その目線で考えたとき、「ごちゃまぜ」という言葉が一番しっくりきたということです。

障がい者サッカーの選手と一緒にプレーをしていると、そのうちに障がいのことを忘れてしまうんです。あとで「そういえば、見えてなかったんだ」「そういえば、片足でプレーしていたんだ」と気付くほどです。その瞬間は同じサッカー選手でしかないんですね。一緒にいること、一緒になってプレーすることの重要性に気付かされます。子どもたちにも早くそういう経験をしてほしいと考えています。これは、スポーツだけでなく社会にも当てはまると思います。障がいだけでなく、性別や国籍も含めていろいろな人が一緒にいる、そんな「ごちゃまぜ」の社会。これからは、そういう考えが求められていくと思います。スポーツが共生社会を実現するきっかけのひとつになればいいと考えています。

インクルーシブフットボールフェスタ ©JIFF
インクルーシブフットボールフェスタ ©JIFF

障がい者と健常者が一緒になって障がい者サッカーを体験する「インクルーシブフットボールフェスタ」の様子。サッカーを通して、障がい者と健常者が当たり前のように混ざり合う社会の実現をめざして活動している。©JIFF

—NTTの研究所も視覚障がい者5人制サッカーの田中章仁選手(NTTクラルティ株式会社)と一緒に、小学校でワークショップを行っています。(「触覚がつなぐ共生社会へ向けた学びの場」からの記事参照)

北澤:田中選手のように、共生社会に向けてアスリートが積極的に取り組んでいくことはとても重要だと思います。もしかしたら、彼は競技を始めた頃は、そのような考え方ではなかったかもしれませんが、障がい者からアスリートへとマインドセットが変化し、そこから前向きに取り組み続ける姿勢は正直すごいと思います。

—最後に、年を取ると誰でも体は徐々に不自由になります。障がい者が置かれている状況は、誰にとっても他人事ではありません。そういう意味でも「ごちゃまぜ」という考え方は大切ですね。

北澤:そうですね。高齢化が進む日本においては特に重要でしょう。皆さんにも加齢と共に他人事ではなくなるということを知ってほしいです。僕がめざしたいのは、どんな状況になった人でもサッカーのフィールドにいられるように裾野を広げていくことです。僕も若くはないですが、現在でもスポーツができる、スポーツに取り組んでいけることの喜びを感じています。そして、今は障がい者サッカーもあります。たとえ僕がもっと年を取っても、また何かの理由で障がい者となったとしても、好きなサッカーができるという状況が生まれています。これは本当に素晴らしいことなんです。

©JIFF/photo by C.MATSUMOTO

イベントには多くの子どもたちが参加する。「一緒になってサッカーをプレーしていると、障がいや年齢のことも忘れてチームとして動き始めるんです。子どものころから『ごちゃまぜ』の社会を体験してほしい」と北澤氏は語る。©JIFF/photo by C.MATSUMOTO


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