2052年をSFプロトタイピング⑥
30年後の『ふるえ』
特集記事で未来予想
プロトタイピング協力:矢代真也(SYYS LLC)
『ふるえ』が30年後にも発行されていたら、どんな記事が生まれるのか、SFプロトタイピングで未来を予想する本コーナー。第6回のテーマは、中継・応援です。スポーツにとどまらず、自然に対する応援や、巨大ロボットになりきることで強い共感を生み出す視聴方法など、未来の姿を記事の予告風にSFプロトタイピングしてみました。
※この記事はフィクションであり、登場する製品などは架空のものです。
「応援スタイルで変化する観客席」 2052年1月発行 Vol.218より
家庭でのVRスポーツ観戦は自由視点で臨場感のある映像を楽しめるが、個人での観戦になってしまう。先ごろ登場した「パッション・スタジアム」というVRタイプの応援サービスは、ひと味違う。装着したセンサーから、どのチームの誰を応援しているのかを判断し、応援の熱量に合わせた迫力ある視点を自動的に提供。さらに、同じような応援の仕方をしている他の視聴者を周囲に感じられるようにすることで、応援の場を仮想的に共有するシステムだ。得点した瞬間には周囲で歓声が沸き起こり、横を向くと一緒に応援する人たちがいて、ハイタッチをすればその感触も伝わってくる。状況に合わせて変化しつつ、1人でいながら熱狂の“ 場” を生み出すこの仕組みの開発者に話を聞いた。
視聴環境の充実で観戦場所が家庭になると、一方で現場ならではの魅力も失われます。観客同士の共感や、そこから生まれる熱狂などをどうやって伝送し、“ 場”として再現するかが、次の課題になるかもしれません。(編集部)
「野生動物が“推し”となるプロジェクト」 2052年3月発行 Vol.219より
“ 推し”とは、アイドルの日常の姿や、アスリートの競技以外の一面なども知ることで、もっと応援し他人に勧めたくなること。近年、それを自然保護に向ける取り組みが行われている。「“推しワイルド” プロジェクト」は、野生動物の生活をモニターし、普段は見ることのない、エサを探す苦労や愛情あふれる子育ての様子、弱肉強食の現実や不意に訪れる死などをリアルに体験することで、その動物たちが“ 推し”となり、自然保護へ意識を向けるという仕組み。クジラやゴリラから送られてくる中継映像に夢中になり、自然に対する敬意を示す視聴者が続出しているこのプロジェクトを追った。
応援したいという気持ちには、多様な可能性があるのかもしれません。人は、対象を擬人化することで動植物に対しても共感することができます。自然界に対して「わたしたち」という視点を持つきっかけも、そこから生まれてくるのではないでしょうか。(編集部)
「身体を超えてなりきるという究極の鑑賞方法」 2052年5月発行 Vol.220より
アスリートのパフォーマンスを計測し、鑑賞者がそのデータをリアルタイムで感じながら疑似的にプレーすることで強い共感を生み出す「なりきり体感観戦」。この本人になりきる観戦・鑑賞方法が人以外の存在にも利用可能になり、特撮やアニメに登場するキャラやメカにもなりきることができるようになった。サイズ感に制限がなく、大怪獣や巨大ロボなどになって暴れることもできる。このシステムを提供する施設では、新作はもちろん、子供の頃に観た作品の登場人物やキャラにもなれるとあって、夢をかなえるために訪れる大人が押しかけているという。究極のコンテンツ鑑賞方法の体験を報告。
共感を追い求めた結果たどり着いた「本人になりきる」という手法がエンタテインメントの世界に広がると、より深い感動を引き起こす装置になる可能性があります。身体的な共感は身体の違いをどこまで超えることができるのか、興味深いです。(編集部)