共創の場でウェルビーイングな2日間
EVENT REPORT
共創の場でウェルビーイングな2日間

『Well-being 2days in QUINTBRIDGE』開催

2022年6月1日、2日/QUINTBRIDGE(大阪府大阪市)およびオンライン

共創を生み出す新拠点で大規模なウェルビーイングイベント

QUINTBRIDGEは、会員同士が活発に交流し、共創から新たな価値を生み出すことを目的として生まれたNTT西日本のオープンイノベーション施設です。同施設の初の大規模イベント「Well-being 2days in QUINTBRIDGE」は、ウェルビーイングをテーマに、「学ぶ」「繋がる」「共創する」というQUINTBRIDGEにちなんだ3つのキーワードを軸にプログラムが2日間にわたって開催されました。「学ぶ」では、ウェルビーイングをテーマに各種トークセッション、「繋がる」では参加者交流会の開催、そして「共創する」では法人会員らによるウェルビーイングビジネスのピッチや技術展示などが実施されました。

初日にはまず、NTT西日本イノベーション戦略室の市橋直樹氏より、2022年3月に運用が開始され、2カ月経過したQUINTBRIDGEの状況と、今後の展開について報告がありました。オープンから既に1万人以上が利用し、順調に個人・法人とも会員数を伸ばしており、会員とともに“わたしたち” を主語に共創を進める「Self-as-We」を実現する場として始動しているとのことです。

次に、NTT社会情報研究所の宮本 勝氏によるセミナー「Social Well-being ~ “わたしたち” で考えるWell-being~」です。人と人が情報通信技術によって常につながり、それがウェルビーイングに大きな影響を与えている現在、働くこと、学ぶこと、家族というテーマでどのような課題・展望があるのか提示され、個人に閉じたウェルビーイングではなく、人とのつながりを通じて個人の自律と集団の調和が実現されるSocial Well-beingについて、プレゼンテーションがなされました。

そして、NTT西日本イノベーション戦略室の浦狩亜紀氏とNTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司氏によるトークセッション「もっと教えてWell-being!」が開催されました。個人と社会のウェルビーイングの違いや、「Self-as-We」の考え方が分かりやすく解説されました。

初日の最後は、NTT西日本広報室の延原恒平氏による「わたしたちのウェルビーイングカード」を使ったワークショップが実施されました。

2日目は、法人会員の企業が登壇しての企業ピッチが多く行われたほか、幸福学の第一人者である慶應義塾大学の前野隆司教授をゲストに迎え、渡邊淳司氏とのトークセッション「Well-beingとその社会への広がり~触れる感覚から始まる心の豊かさの源流に迫る~」が行われました(詳細は、「Well-beingとその社会への広がり~触れる感覚から始まる心の豊かさの源流に迫る~」参照)。QUINTBRIDGEがウェルビーイングな場となった2日間でした。

ワークショップ市橋直樹氏(NTT西日本)
ワークショップ宮本 勝氏(NTT社会情報研究所)

短期集中で新規事業創出をめざす
QUINTBRIDGEでは現在、スタートアップ、企業、研究機関等との共創によりWell-beingな未来社会を実現することを目的に、未来共創プログラム『Future-Build For Well-being society』を実施中です。
未来共創プログラム https://www.quintbridge.jp/program/2022_future-build/
トークセッション

「Well-beingとその社会への広がり
~触れる感覚から始まる心の豊かさの源流に迫る~」

「Well-being 2days in QUINTBRIDGE」において、幸福学の第一人者、慶應義塾大学の前野隆司教授を迎えてのゲストトークセッション「Well-beingとその社会への広がり」が行われました。その様子を紹介します。
Wellbeingとその社会への広がり
前野隆司(慶應義塾大学教授)
渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
浦狩亜紀(NTT西日本イノベーション戦略室)

工学系からウェルビーイングの道へ

浦狩亜紀(以下、浦狩):前野さん、渡邊さん、まずは自己紹介をお願いいたします。

前野隆司(以下、前野):慶應義塾大学で幸せの研究をしています。もともとはロボットの触覚の研究をしていたのですが、最近は、幸せな働き方、製品・サービスづくり、街づくり、教育づくり、そういう研究をしています。よろしくお願いします。

渡邊淳司(以下、渡邊):私も、もともとは触覚の研究が中心だったのですが、最近はウェルビーイングにテーマをシフトしています。実は、私が大学院を出て数年後、触覚の研究をしているころに、前野先生の研究室に研究員としてお邪魔していたことがありました。そのとき、正直なことを言いますと、「幸せの研究って、前野先生はどこに行ってしまうのだろう?」と思っていました。そうしたら、今自分もウェルビーイングの研究をしていて、実は同じ道を歩いている……。前野先生はなぜ幸せの研究を始めたのでしょう?

前野:ロボットの研究をしていたころから、笑ったり怒ったり、幸せ・不幸せを体感するロボットを作りたいと思っていましたし、幸せの研究に関する勉強もしていました。大きなきっかけとして、2008年に文系と理系を融合したシステムデザイン・マネジメント研究科という部署に移ったので、本格的に幸せの研究を始めました。

渡邊:日本では理系からのウェルビーイングへのアプローチが少ないと思いますが、どう思われますか?

前野:ウェルビーイングは健康、幸せ、福祉と訳されるので、まさに医学系、心理学系、福祉系の研究者が多くて、われわれのような工学系は少ない。文系と理系の間の領域には研究のパラダイスが広がっているのに、日本は縦割りで、そこからイノベーションが起きにくい。横の交流でイノベーションを起こして新しいものを作るには「ぐちゃぐちゃ」にする必要がありますが、日本はそれが苦手かもしれません。

ウェルビーイングな製品やサービスに向けて

浦狩:この会場であるQUINTBRIDGEは、さまざまな人が「ぐちゃぐちゃ」といろいろ混ざり合うことで、新しいビジネスが生まれる空間となることを狙っています。次の質問ですが、前野さんが今一番注力している領域は何でしょう?

前野:私として何かに注力するというよりは、ウェルビーイングの研究室なので、研究室に来る学生それぞれが一番やりたいことをやっています。ウェルビーイングを考慮した製品、サービス、街づくり、組織づくりが多いです。

渡邊:ウェルビーイングを考慮した製品やサービスには、いろいろなスタンスがありますよね。自分の幸せとは何かを知った上で、日々振り返るやり方もありますし、ウェルビーイングについて意識させずにやるやり方もあります。後者の場合、行き過ぎると「幸せにさせられた状態」になってしまうので、バランスが大事だと思います。

前野:現在、実際のところ、製品やサービスを通して、消費者に幸せになってもらおうという流れはそこまで多くないです。渡邊さんが訳された『Positive Computing』だったり、私が言っているウェルビーイングを考慮したデザイン、設計の流れはありますが、まだわずかですね。もし、生み出される製品やサービスのすべてがウェルビーイングに資するものになれば、世界のGDPはウェルビーイング産業とイコールになりますし、そこはやる価値があると思っています。

渡邊:もう1つ、企業に属する個人それぞれが、自分なりのやり方で会社のミッションを解釈し、自分なりの行動ができる時間や心の余裕があることも大事だと思っています。企業ミッションが自然に優しい製品を作ることだとして、個人ができることは、「家の前のゴミを拾う」でも構わないと思っています。集団が大事にしていることと個人が大事にしていることを、うまくすり合わせられたらいいですね。

前野:確かに、ウェルビーイングは自分で考えるものなので、リテラシーとして個人が幸せに気を付けるということが必要な世の中でもあります。思ったのですが、もしかしたら僕は理想論を語っていて、渡邊さんは今ある会社の制約の中で少しずつ変えるにはどうするかということを語っているのかもしれませんね。僕自身は幸せな職場で100%幸せに働いているし、ものすごく幸せな会社の研究をしているから、理想的に本当に社員が幸せで、幸せな製品を作って、皆仲良くやりがいを持って働いている理想像をいくつも見ています。でも、それはとても少ない例です。多くの会社は、苦しい中でちょっとずつ頑張っている人がいます。もちろんそうしないと理想には近づかないのですが、僕はついつい「理想はこうだよ」と言いたくなります。

渡邊:なるほど。確かに僕の視点は、社会では必ずしも多数の人のウェルビーイングは同時には満たされないという前提から始まっている気がします。もちろん、できるだけ多くの人のよいあり方が実現されることを望んでいます。ただ、それは少しずつ変わっていくのかなと。例えば、人事から考えると、会社の中でパフォーマンスを発揮している人がウェルビーイングを重視するならば、人事もそのような人を採用したくなります。ならば大学も教育に取り入れようとするし、もっと早い義務教育から学び始めるということにもなります。このようにウェルビーイングは多様な関わりシロがあるので、いろいろやり方はあるのかなと思います。

前野:ウェルビーイングの研究は十数年やっていますが、今では仲間がいろいろな分野に進んでいるので、ウェルビーイング学会を作ろうとしています。ウェルビーイングになりたい人、社会を作りたい人、誰でも入れます。学術レベルも高いけれども、誰でも入れて皆が話し合えるような場になればいいと。それと、今の時代の流れとして、均一化から、地域の多様性を大切にする方向に移っていると思います。そういう意味ではここ大阪には、お笑いなど独特なものがありますよね。「やってみなはれ」という気質は、僕が提唱している幸せの因子「やってみよう因子」と一緒だったりしますし、大阪の自由な雰囲気は、ウェルビーイングやイノベーションとつながっているのではないでしょうか。

企業からのウェルビーイングへのアプローチはまだわずかなものだと語る、前野隆司教授

企業からのウェルビーイングへのアプローチはまだわずかなものだと語る、前野隆司教授。

これからのウェルビーイングとは?

浦狩:最後の質問になりますが、本日のセッションを通して、ウェルビーイングとはどのように考えたらいいでしょうか?

渡邊:ウェルビーイングは抽象的なものであって、一方で、それが実現されるエピソードはひとり一人それぞれ固有のものです。そこで、各人が持っている大事なことを共有しながら一緒に具体化していく、つくり合うのが大事だと思います。そのときに大事なものの1つは言葉。ウェルビーイングという言葉があることでチーム内で価値観のやり取りができて、結局は組織の文化につながると思います。2つ目に評価です。どんな基準で周囲から“よい”と認められるのか、人事制度ですね。さらに、会社自体の評価システム、会計にも入るといいのではないでしょうか。

前野:今日は、ウェルビーイングを職場や製品に埋め込むという話をしました。一方で、ウェルビーイングの根本的な部分から考えると、われわれは生きています。悩んだり喜んだりします。ウェルビーイングは心のよい状態、幸せで健康な状態ですから、生きている以上ウェルビーイングな時間が増えるほうがいいですよね。「もうかるの?」とかいろいろ言う人がいますが、もうかるより何より、人類にとって一番重要な価値はウェルビーイングだと思います。SDGsも人々、生き物、地球全部がよい状態であるためにあるわけですから、ウェルビーイングが一番大事な概念だと感性で感じてほしいと思います。ウェルビーイングは大事だと、右脳を使って感性で感じ取ってほしいですね。

前野教授の話に耳を傾けるNTT西日本の浦狩亜紀氏と、渡邊淳司 本誌編集長

前野教授の話に耳を傾けるNTT西日本の浦狩亜紀氏と、渡邊淳司 本誌編集長。


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