触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌 ふるえ Vol.61
Sustainable Well-being
それぞれのウェルビーイングと会社との関わり

働く人と会社の結び付きを表すエンゲージメント。私たちにとって〝働く〟ことは人生の多くの時間を占める大切な営みです。NTTのエンゲージメント調査の背景にある考え方と、「よく生きるあり方、よい状態」であるウェルビーイング視点での分析から見えてきた気付きを紹介します。


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働く人と組織をつなぐエンゲージメント

NTT総務部門と研究所の協働

NTTでは、会社との結び付きや貢献意欲などを測るエンゲージメント調査を、総務部門が主管となり、グループの従業員に対して毎年実施しています。近年、この調査の一部に、研究所のウェルビーイングに関する知見や成果が取り入れられ、新しい示唆が得られつつあります。同調査の主管である総務部門の田邉直記さんと、ウェルビーイング研究を推進するNTT社会情報研究所Well-being研究プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務める深山 篤さんに話を聞きました。

堀田 聰子

田邉 直記
Naoki Tanabe

NTT株式会社 総務部門 人材戦略担当 担当課長。NTTコミュニケーションズ(現・NTTドコモビジネス)入社。営業・財務・ビリングなどの業務を経て、2020年にNTT持株会社へ転籍。ダイバーシティ推進室で多様な人材活躍と働き方改革を推進し、2021年より従業員エンゲージメント調査を主管。2024年から人材戦略で従業員エンゲージメント調査の主管および人的資本開示を担当。

堀田 聰子

深山 篤
Atsushi Fukayama

NTT株式会社 社会情報研究所 Well-being研究プロジェクト プロジェクトマネージャー。人と機械の関わりに関するヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)研究をベースに、人のウェルビーイングに資するデジタルツイン研究などを経て、現職にて人と社会が共によい状態である「Social Well-being」を実現する技術や実践方法に関する文理融合型研究プロジェクトを主導。

「従業員体験の高度化」をめざすエンゲージメント調査の役割

—田邉さんの現在の業務と、研究所との関わりについて教えてください。

田邉直記(以下、田邉): 私は2020年7月に、NTTコミュニケーションズ(現:NTTドコモビジネス)から、持株会社 総務部門のダイバーシティ推進室に転籍してきました。ダイバーシティ推進室では、2014年度からNTTグループの従業員満足度調査を実施していたのですが、コロナ禍を契機に「働きやすさ」だけでなく、「働きがい」に着目したエンゲージメント調査へ転換を進めることになりました。私は、2021年度のエンゲージメント調査開始以来、調査の主管として取り組んでいます。社会情報研究所の皆さんとは、ウェルビーイングはエンゲージメントと深い関わりがあるという点から、一部の調査項目を検討する上で議論をさせていただいています。研究所の知見を組み合わせながら、"NTTらしさ"であったり、"NTTならでは"のエンゲージメント調査のかたちやその高め方を一緒に模索しています。

—続いて、社会情報研究所でウェルビーイング研究に携わる立場として、深山さんに自己紹介をお願いします。

深山 篤(以下、深山): 私は、NTT入社時はコミュニケーション科学基礎研究所に所属していました。その後、事業会社でのネットワークサービス開発・運用、人間情報研究所でのデジタルツイン技術の研究、Self-as-Weの哲学に関する共同研究などに関わり、2024年7月からは社会情報研究所Well-being研究プロジェクトに所属し、個人と組織・社会のよりよい状態を支える技術や考え方の研究を進めています。研究プロジェクトでは、「働くウェルビーイング」も重要なテーマで、エンゲージメント調査との連携も深めているところです。

—NTTで行われているエンゲージメント調査について教えてください。

田邉: NTTは今年で民営化から40年を迎えました。かつては売上の大半を音声サービスが占めていましたが、現在では収益構造が大きく変化しています。また、民営化当時も現在もほぼ同じ30万人規模ですが、2010年以降は海外のグループ企業が増え、社員構成も変化しています。事業環境が大きく変化する中、これまで以上に個人の力と組織の力の両方を高める必要が出てきました。2023年5月に発表された新中期経営戦略では、「従業員体験(EX)の高度化」を重要な柱の一つとして掲げています(図1)。

会社として、社員の成長実感や働きがい、"ワクワク感"を大切にして、その成長を支援していくとともに、多様な社員が多様な働き方ができる環境を整えていこうとしています。そして、その実現度を定点観測するのがエンゲージメント調査です。現在、国内でいうと、従業員19万人のうち18万人弱の方に回答いただいていて、多くの従業員の声が集まっています。

図1

図1 2023年5月、NTTグループ中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」で示された3つの柱。エンゲージメント調査は、その中の「従業員体験(EX)の高度化」に関わっている。
※新中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」の資料より作成

NTT社員のキャリア志向と環境・価値観の関係

—エンゲージメント調査の結果から見えてきたポイントを教えてください。

田邉: 大まかに言うと、エンゲージメント調査の項目は、エンゲージメントやインクルージョンなどの結果を表す指標と、それに影響を及ぼすとされるドライバー指標から構成されています。NTTのエンゲージメント調査(2024年度)結果からは、「キャリア」「対話」「戦略」の3テーマがエンゲージメントと相関が高いことが見えてきました。ここでは、その中から「キャリア」について紹介します。

「Quiet Quitting(静かな退職)」という言葉があります。これは、実際に会社を辞めるのではなく、精神的に仕事から距離を置き、必要最低限の業務のみをこなす働き方をさします。過度な「ハッスルカルチャー」への対抗として、ワークライフバランスを重視し、仕事と私生活の境界線を明確に分けることを目的として、近年注目されている考え方です。現在のNTTグループの従業員のうち、このQuiet Quittingの状態にある層はどの程度なのか推計しました。エンゲージメント調査結果では、これを「自発的貢献意欲」と「継続勤務意向」の設問から見ています。具体的には、「仕事を成し遂げるために求められる以上の貢献をしようという気持ちになる」ということを聞く設問に対して5段階で回答するものと、「この会社で、あとどのくらい働こうと考えていますか?」という設問に年数を選択して回答するものです。これらの設問に対する回答をかけ合わせて分析したところ、自発的貢献意欲も継続勤務意向も高い「コア人材」が全体の約半分を占めていることが分かりました(図2)。一方で、継続勤務意向は高いが自発的貢献意欲が低い「QQ状態(Quiet Quittingの状態)の人材」が約10%という結果が分かりました。

図2

図2 自発的貢献意欲と継続勤務意向がいずれも高い層を「コア人材」、継続勤務意向は高いが「自発的貢献意欲」が低い層を「QQ状態」と分類。自発的貢献意欲は5段階の回答のうち、上2つを「高」、真ん中を「中」、下2つを「低」とした。継続勤務意向の回答では、3年以上を「高」、1年から3年を「中」、1年未満を「低」としている。

—興味深い分類です。従業員が「自分から貢献したい、長く貢献したい」と考えるかどうかは、どのような要因によるのでしょうか?

田邉: NTTグループのエンゲージメントスコアでは従業員の約6割が「エンゲージメントが高い(肯定的)」状態ですが、コア人材の層においては8割以上となります。一方、QQ状態の層は2割以下と、かなり大きな差が出ています。QQ状態の層を分析すると、一般的に言われる「ハッスルカルチャーへの対抗」ではなく、キャリア向上や成長機会に不満を感じていることが分かりました。例えば、「仕事にやりがいがあるか」「学びや成長の機会があるか」「キャリア上の目標が達成できるか」といった項目と相関が高いのです。つまり、QQ状態を解消し、コア人材を増やしていくためには、成⻑の機会やキャリアをしっかりと描けるようにしていくことが不可⽋だということです。

それには、キャリアを考える機会を定期的に持つことや上長や周囲の方と会話をすることが重要になってきます。NTTでは、技術系・営業系・企画系などの職種ごとに専門性を深める18の専門分野を設定し、専門分野別に6段階の社員グレード基準を設けています。その先には、マネジメントのジョブグレードと、社内外に通用する高度な専門性を有する社員を対象としたスペシャリストグレードを複線で設定し、マネジメントとスペシャリストの両面で社員が自らの志向や強みに応じたキャリアを選択できる環境を提供しています。まだ従業員への認知度は高くないため、2024年度、2025年度とグループ横断の交流会を開くなど、制度の説明を地道に続けています。ほかにも、「NTT Group Job Board」という社員が自ら異動希望を出せる社内公募制度も運用しており、2022~2024年度の間で 応募者・採用者ともに大きく増加しています。

—エンゲージメント調査の結果が人事制度の設計にも生かされているのですね。ほかにも、違いを生む要因はありますか?

田邉: もう一つ興味深い結果として、研究所と連携しながら取得している「働く価値観」のデータがあります。働く価値観の質問は、研究所が抽出したウェルビーイングの要因を参考に25の選択肢を設け、これらの中でその人が働く上で大事な価値観を1つ選んでもらっています(図3)。この調査結果と先ほどのキャリアの分析結果を組み合わせてみると、両者の違いが鮮明になりました。例えば、コア人材の層は、「信頼する・される」「達成感を持てる」「感謝する・される」「成長できる」「社会に貢献する」などの価値観を重視する一方、QQ状態の層は、「心安らかに働く」が顕著に重視されており、キャリアの層によって大きく異なる傾向が見られました。また、その価値観の満足度についても5段階で聞いています。全体として、働く価値観の満足度が高いとエンゲージメントスコアも高く出ています。その中で、コア人材の層の働く価値観の満足度は高く、QQ状態の層は満足度が低くなっています。つまり、コア人材の層は信頼や達成感に関する価値観が満たされているのに対し、QQ状態の層は、心安らかであることが大事であるのに、そのように働けていないということです。

図3

図3 働く価値観に関する設問の選択肢のイメージ。「あなたが働く上で大事にしていること、もしくは大事にしたいと思っていることは、どんなことですか?」という設問に対して、25個の選択肢から1つを選ぶ。また、満足度に関しては、「あなたは働く中でその価値観がどの程度満たされていますか?」という設問に対して「5:とても満たされている/4:満たされている/3:どちらともいえない/2:満たされていない/1:全く満たされていない」の5段階で回答する。

ウェルビーイングの価値観とエンゲージメント

—深山さんに伺います。働く価値観の調査について、Well-being研究の観点から解説をお願いします。

深山: 社会情報研究所は2022年度の調査から、一部の質問項目の議論に加わっています。初めに、研究所が京都大学と共同で開発した「Self-as-We(セルフ・アズ・ウィー)尺度」に関する質問項目について検討していただきましたが、2023年度の調査からは、「ウェルビーイング価値観」の視点から作成した「働く価値観」を尋ねる質問項目についても活用してもらっています。「ウェルビーイング価値観」はもともと、研究所で自身やお互いのウェルビーイングについて理解・共有するために制作された「わたしたちのウェルビーイングカード」[*1]で取り上げた、人々のウェルビーイングが実現される上で重要な要因のリストで、それを働く場に適用し、「働く価値観」としてリストを作成しました。

—NTTグループ全体としては、どのような傾向が見られましたか?

深山: 全体では、「信頼する・される」「心安らかに働く」「達成感を持てる」「感謝する・される」「社会に貢献する」といった価値観が多く選ばれています(図4)。価値観なので、「こうあるべき」ということはないのですが、インフラ事業をやっているNTTならではの価値観と言えるかもしれません。

また、分析は選ばれた価値観を「I」「WE」「SOCIETY」「UNIVERSE」の4つのカテゴリーに分類して行いました。例えば、「I」のカテゴリーの価値観を大事にする人は43%を占めます。ここにはキャリア開発など自己成長への関心が強い人、もしくは、心の安らかさなど自身のあり方に関する興味が高い人が多く含まれます。「WE」は30%で、信頼関係や相互尊重といったチーム内の関係性を重視する人たちを多く含みます。「SOCIETY」は22%で社会貢献や多様性を重視する傾向があり、「UNIVERSE」を選んだのは4%で自然や時間を越えたつながりを大事にする人たちです。

価値観のランキング

①信頼する・される
②心安らかに働く
③達成感を持てる
④感謝する・される
⑤成長できる
⑥社会に貢献する
⑦みんなで協働する
⑧お互いに価値観を理解・尊重する
⑨思いやりを忘れない
⑩挑戦できる仕事をする

カテゴリーの分布

図4

図4 エンゲージメント調査へ回答し、同時に研究参加への同意が得られた11万5201人の「働く価値観」の調査結果。グループ全体で多く選ばれた価値観のランキングと、「I」「WE」「SOCIETY」「UNIVERSE」のカテゴリーの分布。なお、「その他」は自由記述の回答の割合。

—役職や年齢によっても傾向は変わるのでしょうか?

深山: 役職ごとの違いで言うと、社員であれば「心安らかに働く」(I)が多いのに対し、主査[*2]では「信頼する・される」「感謝する・される」(WE)の価値観が多くなります(図5)。担当課長では「達成感を持てる」(I)が最も多いですが、「社会に貢献する」(SOCIETY)も4番目に多く選ばれています。さらに、担当部長・部門長では「社会に貢献する」が2番目になります。社員から、主査、担当課長、担当部長・部門長と職位が上がるにつれて、「I」の価値観だけでなく、「WE」や「SOCIETY」の価値観が増えていくのが特徴的です。

社員

心安らかに働く

信頼する·される

成長できる

感謝する·される

達成感を持てる

主査

信頼する·される

感謝する·される

達成感を持てる

心安らかに働く

社会に貢献する

担当課長

達成感を持てる

信頼する·される

感謝する·される

社会に貢献する

みんなで協働する

担当部長・部門長

達成感を持てる

社会に貢献する

信頼する·される

感謝する·される

挑戦できる仕事をする

図5 大事にしている働く価値観の役職ごとのトップ5。「達成感を持てる」は全体に共通しており、主査以上では「社会に貢献する」が上位に入っている。全体的に役職が上がると、「WE」や「SOCIETY」の価値観が増えていく傾向が見られる。

また、社員だけで年齢による違いを見ると、若い社員では、「I」の価値観を約半数の従業員が選んでいるのに対し、50代の社員では、「I」の価値観は4割程度まで減り、その分「WE」や「SOCIETY」が増えています。そうすると、若い社員に対しては、「I」に関する挑戦の機会や心が休まる場を提供することが重要だということになりますし、年齢が上の社員に対しては、人と人の関わりや社会への貢献も意識した施策をすることが重要でしょう。こうした人それぞれの違いを理解した上での目標設定や業務配分、日々のコミュニケーションを行うことが、エンゲージメントの向上につながると思います。そして、それぞれの組織における価値観の傾向に合わせて、エンゲージメント向上に向けた打ち手を変えていくことは、多様な社員の価値観を認めながら、会社全体でエンゲージメントを上げていくことにつながると考えています。

チャレンジ×スキルで“挑戦し続ける”文化の醸成を

—エンゲージメント調査の結果は、今後どのように活用していく予定ですか?

田邉: 今年、新たなCIを策定[*3]しました。また、グループの「Core」策定では国内外の社員の皆さんとワークショップや議論を重ねながら、グループとしての「Core」を見つめ直しました。「⼈々の豊かな暮らしと地球の未来に貢献するため、お客さまを発想の原点とし、常に⾃⼰⾰新を続け、世の中にダイナミックな変⾰をもたらす企業グループをめざす」というものです。ここで個人的に注目している表現は「常に自己革新を続け、」という部分です。実は、2023年5月に発表されたNTTの中期経営戦略の基本的な考え方も"NTTは挑戦し続けます"という言葉で始まります。このようなNTTのありたい姿を一言で表すと、「挑戦し続ける」ということになると思います。

そして、ここで注目したのが「フロー理論」です。チャレンジレベルとスキルレベルが釣り合っていて、高い集中力と没入感を持って活動に取り組むことが可能な「フロー状態」では、創造性や生産性が高まり、持続的な成長が期待されるというものです。このフロー状態が生まれやすい環境を作ることも、エンゲージメントの質の向上につながると考えました(図6)。エンゲージメント調査を通じてチャレンジとスキルのバランスを捉えることで、社員にとって自己革新を続けられる環境が整っているかどうかを評価する新たな視点が得られるのではないかと期待しています。

深山: 研究所のウェルビーイング研究は、何に幸せや生きがいを感じるのかといった価値観は人それぞれだという考え方をベースに進めています。NTTグループにはさまざまな会社がありますが、それぞれがめざす"挑戦し続ける"姿も異なるものだと思います。そういったカラーを出しつつ、いかに組織としてエンゲージメントを高められるのか、研究で貢献していきたいと考えています。そのためには、分析手法だけでなく、打ち手としての研修などの施策を組み合せてNTTグループでの実証を進め、従業員それぞれのウェルビーイングに立脚したエンゲージメント計測・分析・促進の方法論として体系化していきたいと思います。

図6

図6 個人のスキルと業務の挑戦度が最適にバランスしているのが「フロー状態」と定義。フロー状態が生まれやすい環境を社員に提供することが、エンゲージメントの質向上と持続的な成長の実現に欠かせない。


[*1]『わたしたちのウェルビーイングカード 働く、学ぶ、暮らす場で、楽しくチームが生まれてしまう?!』(NTT出版、2024 /ふるえ Vol.50参照
[*2]係長、チーフなどに相当。
[*3]「 NTTグループのCIの刷新について

エンゲージメント調査からのインサイト①

同期型ハイブリッドワークの可能性

NTTグループでは、日々の始業・終業時刻を自分で決められる「フレックスタイム」制度を、1991年に研究職に導入。その後2016年には、対象社員を拡大しました。そして、コロナ禍を契機に、コアタイムのない「スーパーフレックスタイム」制度や、オンラインでの就業を可能にした「リモートワーク」制度を導入しました。さらに、2022年7月には、居住地の制限を撤廃した「リモートスタンダード」制度も加わりました。こうした働き方とエンゲージメントの関係を分析すると、いくつかの傾向が見えてきます。まず、フレックスタイムについては、制度を活用して自律的な働き方ができていると感じる人は、エンゲージメントが高い傾向がありました。リモートワークについては、リモートワークの日数とエンゲージメントの関係には、目立った関連性は見られませんでした。ただし、リモートワークが0日、つまり「リモートワーク制度があっても利用できない」状態の一般社員、および「リモートワーク制度自体が存在しない」状態の管理職は、エンゲージメントが低い傾向にありました。

2022年には、エンゲージメント調査とは別に働き方に関するアンケートも実施されました。そこで、チーム全体で出社日を、「そろえていない」「定期的にそろえている」「不定期でそろえている」というケースで、生産性やリモートワークの満足度などを比較したところ、毎週決まった曜日など定期的にそろえて出社する「固定型出社チーム」は、そろえない「ランダム出社チーム」とほとんど変わらない状態でした。一方で、目的や案件に応じて不定期にそろえて集まる「目的指向型出社チーム」では、生産性・満足度とともに「ランダム出社チーム」よりも高くなっていました。これは、リモートワークにおいては、自分の意思で自律的な働き方を選べているかどうかが、エンゲージメント向上に重要である可能性を示しています。現在NTTグループでは、「目的に応じて場所を選び、集う」という“同期型”の働き方を「ハイブリッドワーク」として推奨しています。

エンゲージメント調査からのインサイト ②

プレゼンティーズム──健康とウェルビーイング経営

エンゲージメント調査では、心身の状態がよくないまま出勤し、生産性などの業務パフォーマンスが低下している状態、いわゆる「プレゼンティーズム(Presenteeism)」に着目した分析も行っています。調査によると、約4割の社員が、「⾸や肩のコリ」「メンタル不調」「不眠・睡眠不⾜」など、業務に影響する心身の不調を抱えている状況です。このとき、不調が「ある」と答えた従業員は、「ない」と答えた従業員と比べてエンゲージメントが約20ポイント低くなっていることが明らかになりました(図)。さらに、症状別に見ると、「メンタル面の不調」「不眠・睡眠不足」「偏頭痛、慢性頭痛」「月経不順、PMS(月経前症候群)等」を抱える従業員の半数以上が、「症状が出るとパフォーマンスが8割以下に下がる」と回答しています。外からは見えにくい心身の不調が業務の質に大きく影響している実態が浮き彫りになりました。

こうした背景を踏まえ、NTTでは「健康経営」の一環として支援制度の拡充を進めています。例えば、2024年7月に新設された「不妊治療サポート休暇」制度は、治療にかかる時間的・精神的負担や周囲の理解の難しさに対応するため、従業員が安心して治療と仕事を両立できるように、まとまった休暇を取得できる制度となっています。

プレゼンティーズム対策は、単なる健康問題への対応にとどまらず、従業員が自らの心身を整えてウェルビーイングを実現する力を獲得することや、その力を発揮し安心して働ける制度や環境を整えることが大事であり、それらにより、従業員の仕事への自発的な貢献や挑戦意欲も高まっていくと考えられます。

図

図 プレゼンティーズムとエンゲージメントの関係を示す例。健康上の問題があると感じている場合、肯定的な回答が20ポイント低くなっている。

[本研究についてのお問い合わせ] NTTでのウェルビーイング研究の成果を取り入れたエンゲージメント調査についてご興味のある方は、以下のアドレスまでお問い合わせください。
NTT株式会社 社会情報研究所 Well-being研究プロジェクト
wb-contact@ntt.com

NTT研究所発 触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌 ふるえ Vol.61 それぞれのウェルビーイングと会社との関わり
発行日 2025年11月1日
発 行 NTT株式会社
編集長 渡邊淳司(NTT 上席特別研究員)
編 集 矢野裕彦(TEXTEDIT)
デザイン 楯まさみ(Side)

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