[特集1] 人には聞けない温度のヒミツ

Q. そもそも、温度って何ですか?私たちは、温度をどうやって感じるのですか?

A. まず、「温度」という物理的な尺度と、「温かい」、「冷たい」という人間の感覚を分けて考える必要があります。世の中の物質はすべて分子(原子)からできていて、それらは激しく運動をしています。気体や液体だけでなく、固体の分子も振動をしています。その分子の運動の激しさ(熱エネルギー)を、20℃や30℃といった数値で表したものが温度です。

熱には「温度の高いところから低いところへ移動する」、「同じ温度になったら移動しない」という性質があります。指で物体に触れたとき、皮膚温度が物体温度より高いと、熱エネルギーが指から物体へ移動し、物体を「冷たい」と感じます。逆に、皮膚温度が物体温度より低いと、熱エネルギーが物体から指に移動し、物体を「温かい」と感じます。人間の皮膚下約0.2mmには、熱の流出(冷たさ)を検出する神経が、皮膚下約0.5mmには、熱の流入(温かさ)を感じる神経があります。

Q. 温度はどんな技術に役立つのでしょうか?

A. 近年、バーチャルリアリティ技術において触覚の情報提示が注目を集めています。粗さ、硬さ、温度といった触覚情報を加えることで、情報のリアリティを向上させたり、情報に生物らしさを付与することができます。また、電話やビテオチャットといったコミュニケーション技術に触感伝送が加わることで、感情をより豊かに伝えることができます。特に、温かい温度は、気持ちよさを感じる神経も発火させることが知られており、非言語的に快の感情を伝えるのに重要な役割を果たします。

皮膚と温度差のある物体に触れると、必ず熱エネルギーのやり取りが生じます。環境にある物体の多くは体温より温度が低いので、人が触れた物体の殆どはわずかに温度が上昇します。その温度の痕跡を赤外線カメラで撮影すると、人が触れた履歴を見ることができます。たとえば、キーボードのキーも、触れた頻度によって異なる温度の痕跡が残っています(右図)。また、快・不快、喜怒哀楽といった情動の変化は、血管の収縮をはじめ様々な生理反応を引き起こし、皮膚表面温度を変化させます。そのため、顔の温度変化からその人の感情を読み取ることもできます(たとえば、怒ると皮膚表面温度は上昇します)。
また、私たちは、色の情報と温度を関係づけて認識します。一般に、「赤」は温かい印象、「青」は冷たい印象と結び付けられ、デザイン分野では様々な表現のなかでで取り入れられています(右図)。また、「心の温かい人、冷たい人」というように、人間のパーソナリティを表すのにも、温度の形容詞が使われています。このように、温かさ、冷たさは、熱エネルギーの移動だけでなく、それと関連する心理的要素をも表します。

Q. ぬくもりって何ですか? ぬくもりある生活がしたいです。

A. ぬくもりを感じるのはどのような時でしょう? 春の温かな日差しを浴びたときや、子どもを抱っこしたとき、恋人に触れたときなど、ただ単に温度を温かいと感じるだけでなく、その温かさの向こうに安らぎや人の存在を意識したとき、言い換えると、物理的な温かさと、心理的な温かさを併せ持つものに「ぬくもり」を感じるのではないでしょうか。

過去の実験で、ミルクを携えた鉄でできいる猿の母親の人形と、ミルクはなく柔らかい毛布だけを携えた猿の母親の人形があったときに(右図)、小猿は、恐怖を感じると、毛布の母親にしがみつくということが報告されています。小猿は、危機的な状況でも生存に重要なミルクではなく、ぬくもりのある毛布を選びました。このように動物だけでなく、私たち人間も、何かあったときに安心して帰ることができる、「ぬくもり」を感じられる対象を持つことが大切ではないでしょうか。

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