[特集4]時間と空間を超えて、能力をオープンソース化する

身体感覚に関わる研究を数々行ない、エンターテイメントの分野でも著名な東京大学暦本純一教授。本レポートでは、氏の提唱する『IoA』コンセプトと身体感覚、そして機械の人間の関係性について伺った。

機械と人間の位置関係

—先日、暦本先生が『IoA ?Internet of Ability』というコンセプトを発表されました。これまでのIoT(Internet of Things……モノのインターネット)や、AR(Argument Reality……拡張現実)との違いはどのようなところにあるのでしょうか。
  空間や時間を超えて能力をやりとりする、ということを可能にしていこうという考え方です。『Flying Head』※1という研究が、IoA概念の第一歩でした。『FlyingHead』では、ドローンに人間が“JackIn(憑依)”して、その能力を人間がバックアップしているんですね。今までは、後ろにあるのは必ずコンピュータだったのですが、その関係が異なっていたりします。能力のやりとりにおいて、どこが人間でどこが機械であるべきか、その異なる能力どうしをどう結合するかが次世代は重要だと思います。

※1『FlyingHead』。ヘッドマウントディスプレイに投影されているドローンの映像が、体験者の動きに合わせて動く

コツは最終的にはデジタル化できる

—時間を超えた能力のやりとり、というと、『コツの伝授』のようなイメージでしょうか。
  大きなチャレンジではありますが、コツは最終的にはデジタル化できると思っています。我々は「オープンアビリティ」と呼んでいます。能力をオープンソースにして、コツがアップロードできる時代がくる。そして、その人の身体能力にあわせて、ダウンロードできるような。

—能力のダウンロードも、その人に合わせてカスタマイズできる、みたいな感じでしょうか。
  その人の筋力とか骨格とか習熟度とかによって、コツの意味がたぶん違ってくるのですが、そこも含めて可能だと考えています。機械学習でのラーニングと、人間のラーニングは実は類似点が多いと思っていまして、どうやったときにコツを掴むかっていうのは、運動が学習しやすい空間(要素の組み合わせ)かどうか、みたいなところがあります。ですので、こうした分野はあわせて発達していくかもしれません。
  『コツ』って、真っ当にやると、情報が超多次元化して、すぐオーバーフローしてしまうんです。けれども、人間はコツを、実は極めて低い次元で理解してると思うんですよ。あるいは、低い次元に落とせるマッピングができたときに、「身体的にわかった」っていうのかもしれません。

自由意志は、実は重荷かもしれない

—こうした研究が進むと、機械と人間の関係で変化する部分もあるかもしれません。
  最近やっている『ChameleonMask』※2もなかなか強烈です。これは、タブレットを使って、他人の顔の映像を自分の顔につけてサロゲートになれるかというものです。
  他人の体になったときに、とても不思議な感覚で、黒子なんだけど100%黒子でもないみたいな、表現し難い感じです。映している顔の人に、右に行けとか左にとか指示できるようにしています。それに完全に委ねると、意外にもものすごく気持ちがいい。操り人形になって、言われた通りに行動すると、人の役に立っている感もあるし、まったく考えなくてもいい楽さもあって、フリーウィル(自由意志)が実は重荷だったのかと気づいてしまう(笑)。

  判断は人間がやって、行動はロボットがやるというのは想定内ですが、もしかすると近い将来、判断をAIがやって、行動は人間がやる、しかもそれで幸せという時代が来る可能性すら考えなければなりません。

※2『ChameleonMask』。左が操作側。右側がボディ側。ボディ側には操作側の顔が表示される。ボディ側は、操作側に遠隔地にて体を貸すイメージ




Copyright © 2015-2019 NTT研究所発 触感コンテンツ専門誌ふるえ