地球上で感じる重力と身体感覚のヒミツ
人は地球の重力の影響を受けて生活を送っているわけですが、普段はその存在を意識することはほとんどありません。私たちは重力をどのように感じ、身体を制御しているのでしょうか。身体のバランス感覚に関するインタフェース技術を研究している安藤英由樹さんにお聞きしました。
安藤 英由樹

答えてくれる人
安藤 英由樹 准教授
大阪大学大学院情報科学研究科
専門:非言語インタフェース技術

Q.人間はどのような仕組みで重力を感じているのでしょうか?

A. 地球上において重力とは、万有引力と自転による遠心力を合わせたもので、それが物体の重さを作り出します。そして重力は加速度を発生させます(重力加速度)。私たちは、耳の奥にある耳石器によって加速度を、三半規管によって角速度を感知しており、これらをまとめて前庭器官と呼んでいます。耳石器は、たくさんの短い毛(有毛細胞)の上に耳石と呼ばれる小さな石が乗っていて、頭を傾けたりすると、加速度の方向変化で耳石にかかる力の大きさが変わり、重力と身体の関係や身体にかかる加速度の大きさの情報を脳に伝えます。また、前庭器官によって身体のバランスが調整されるので、これらがうまく機能しなくなると、めまいなどの症状を引き起こします。スポーツ選手は、競技中に回転する際、この前庭器官の感度を調整して、バランスを安定させる工夫をしています。
  このような加速度感は、頭部に電流を流すことによって人工的に作り出すことができます。左右の耳の後ろに電極を装着し、前庭器官に微弱な電流を流すと、物理的には発生していない加速度の信号が脳に送られ、それに対して身体が反応します。これは、前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation)と呼ばれ、物理的に揺れていなくても自身の身体が揺れているように感じたり、バランスを保とうとして片側の足が力むことで、歩いている方向が曲がってしまったりします。この技術は、もともと医学分野で平衡感覚を検査するために使われてきましたが、近年は、バーチャルリアリティの中で加速度感覚を作り出すために使用されることもあります。例えば、ドライビングシミュレーターでカーブを曲がるときに身体が押し付けられるような感覚を人工的に作り出すことが可能です。
  重力は地球上で生きる上で避けることのできないものですが、そのメカニズムを知ることで、それを変容させたり、克服したりすることが可能になるかもしれません。
   


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