ライヴの価値とバーチャルの価値そして技術の果たす役割
ニコニコ超会議や超歌舞伎。今回お話を聞いた岩城進之介さんは、ドワンゴが手がける数々のライヴイベントを技術面から支えている人物です。360度映像へのこだわりやライヴとバーチャルの関係などについて、熱く語っていただきました。
岩城 進之介
岩城 進之介

エンジニア
リアルとネットをつなぐシステム全般を開発する「ドワンゴ先端技術チーム」を率いるエンジニア。360°LED搭載の次世代ライヴハウス、ニコファーレのコメント演出システムや、バーチャルキャラクタ―のARライヴ演出など多くのイベント、生放送に関わる。

ニコ生でのリアルタイムな反応に強烈な印象

—所属の「先端演出技術開発セクション」では、どのようなお仕事をされているのですか?

岩城: ドワンゴという会社は、一般にはニコニコ動画(ニコ動)などで知られていると思いますが、私たちの部署では主にライヴエンタテインメントの演出や仕掛けを担当しています。具体的にはニコファーレでのイベントやニコニコ超会議などです。ニコニコ生放送(ニコ生)のコメントをリアルタイムで流して話題となった、紅白歌合戦での小林幸子さんのステージもそうですね。また技術開発を進めるなかで、VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)といったテクノロジーも扱うようになっています。

—もともとイベントの仕事をされていたのですか?

岩城:いえ、以前はソフトウェアの開発に携わっていました。アプリやブラウザソフト、あるいは組み込み系のシステム開発などさまざまです。ただニコ動やニコ生には興味があり、入社する以前にニコ生に参加したこともあります。自分が放送で話していることについて、視聴者からリアルタイムに反応が返ってくるということに強烈な印象を持ちました。
  本当に面白かったので、それをエンハンスしたいと思い、趣味でニコ生のコメントを360度投影するといったことを始めたんです(笑)。ドワンゴに入社して、ニコファーレなどのライヴイベントに関わるきっかけにもなりました。

ニコファーレ
ニコニコ動画特有のコメントが360°表示されるディスプレイや、バーチャルキャラが登場するARライヴなど、さまざまな映像演出が可能。


非同期なのにライヴ感!?ニコ動の人気の秘密

—ニコ動の面白さはどこにあるとお考えですか?

岩城: 最近よく言われていますが、ライヴではない(=非同期)のに、ライヴ(=同期)のように盛り上がれるところにあると思います。配信されるコンテンツは非同期なのですが、コメントがあるおかげで、視聴者は他の人と同期している感覚が味わえるんです。いまは、ビデオ・オンデマンドやWebサービスの普及で、時間に縛られない動画コンテンツの視聴が可能になっています。いわゆるタイムシフトですね。ニコ動はタイムシフトしているのに、同じ時間を共有しているかのような感覚を味わえるわけです。
  現在ではこのブレークスルーにより、生放送を含めたライヴ感が見直されてきていると思いますね。横と繋がっている感覚、自分と同じ時間を他人も過ごしているという面白さです。

—それでニコ動からニコ生へと、サービスが広がってきたわけですね。

岩城: 最終的には生放送で一緒に盛り上がろう、ということがゴールとして想定されていました。それに向けて開発を続けていき、最終的にニコ生というサービスとなったわけです。

ハプティックデザインへの大きな期待

—先ほどもちょっと話に出ましたが、360度映像にこだわりがあると伺いました。

岩城: そうですね。リコーの「Theta」などの360度カメラには早くから注目していましたし、実はその前から双曲面ミラーを使っての360度映像の撮影に挑戦したりしていました。思うにそのルーツとなるのは、1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会(通称:花博)」や1985年の「国際科学技術博覧会(通称:科学万博)」辺りまでさかのぼりますね。そういったイベントでの映像に包まれるという原体験が、強い印象として残っていたんです。

—VRに関しても、早くから関わっていますよね。

岩城: 以前、ちょうどヘッドマウントディスプレイのOculusRiftのDK1が出たころに、これで360度映像の中継をしたら面白いだろうとテスト映像を撮って自分で試してみたんです。「これは面白い!」と感じました。ただし、強烈に足りないものがあるとも感じました。それは振動です。さっそく市販の振動ベストを購入して組み合わせてみました。映像に含まれる低音部分を振動で体に伝わるようにし、改めて360度映像を見たところ、これがスゴくよかった。振動などの、いわゆるハプティックの力を強く感じました。

—ニコニコ超会議などのイベントで活用する可能性はありますか?

岩城: いえ、やはりマスを対象にしての利用はデバイスの問題で難しいですね。ライヴなどの臨場感を再現するのに非常に強力な手段だと注目はしています。電気通信大学の梶本裕之准教授の研究で、鎖骨に振動を与えると全身に響くというのがあるんですが、例えばそれを応用した画期的なデバイスが誕生したら、と期待しています。

—技術の進化が楽しみですね。

岩城:ただしあくまでも技術は添え物、主役ではありません。エンジニアであるわれわれは、そのことを忘れてはいけないと、常日頃から気をつけています。

ライヴでリアルとバーチャルの垣根を越えていきたい

—イベントやニコ生で、ライヴ感を演出するコツのようなものはありますか?

岩城: ポイントとなるのは「即時性」あるいは「タイミング」だと思います。特にニコ生の場合は重要です。何かが起こって、それについてのコメントが画面に流れるわけですが、そこで時間がかかってしまうと、もうアウト。「間」と言い換えてもいいでしょう。うまくハマるとライヴ感がグッと高まります。

将棋電王トーナメント
将棋のプロ棋士とコンピュータソフトが闘う生中継シリーズ。対局を支えるバックエンドシステムを担当。岩城氏お気に入りのプロジェクト。

—ライヴイベントの場合は、予期せぬトラブルが発生することもあるのではないですか?

岩城: もちろんありますね。ただ、そういった突発的な出来事にうまく対応できれば、イベントはさらに盛り上がります。アドリブ力のある人が司会だと、臨機応変に対応してくれるんです。ライヴならではの面白さの1つだといえるでしょう。コンテンツの価値が一気に上がり、ユーザーの満足感も大きくなります。

—その場にいること。つまりライヴの価値ということでしょうか。

岩城:そうです。ただ技術の力を使えば、その場にいる人だけではなく遠隔地にいる人、つまりバーチャルで鑑賞しているユーザーにもライヴの価値を味わってもらえるようになるとも考えています。VRやAR、そして先ほど話したハプティックなどは、そのための強力なツールとなるはずです。ライヴなのかバーチャルなのか……、その差を意識させない世界を目標に、これからも試行錯誤を続けていきたいですね。

平成29年度N高等学校ネット入学式
マイクロソフトの「HoloLens」70台を使った、世界初のMR(Mixed Reality)入学式。遠隔地の校長がバーチャルで登壇したり、来賓がCGで出現するなど、独自の式典となった。




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