平らなシートに凹凸感を書き込む「磁性触覚印刷技術」

磁力を使って触感を再現する磁性触覚印刷技

  磁性触覚印刷技術は、磁力を利用して触感を提示する仕組みですが、案外手軽な装置で実現しています。
  まず磁性ゴムシート、これは100円ショップでも売っているものですが、シートを2枚以上重ねているところから1枚を引き抜いて取り出そうとすると、「ボコボコボコ」という触覚を感じます。これはS極とN極がシート上に細かく書き込まれているからなんですが、「この配列を自在に書き込んだり、書き換えたりできたら、触覚ディスプレイとして使えるのではないか」と思ったんです。
  そこで、ネオジム磁石という強力な磁石をカッティングマシンの刃の代わりに取り付けてコンピュータで動かし、デザインした絵柄のとおり正確に磁性シートの上に磁場を書き込みました。すると、例えばストライプ状にS極とN極を着磁した2枚のシートを合わせて動かすと、例の「ボコボコボコ」という触覚が感じられます。さらに、着磁するストライプの幅やパターンを変えると、凹凸感の強度や大きさも変えることが可能です。着磁したシートを絵本などに入れれば、触感を感じる絵本を作ることもできます。

コモディティ化がもの作りの可能性を広げる

  一般化された製品や、マテリアルのことをコモディティといいます。例えばパソコンは、昔は特殊製品だったけど、今は普通に買えます。私は、こういったコモディティ製品を使うことによって、もの作りのハードルを下げたいと思っているんです。そう考えるのは、コンピュータが自分で買えるようになったことで、自分のできることがすごく広がったからです。例えば、映像制作も可能だし、絵も音楽も作れます。
  同様に、100円ショップの商品をもの作りの軸に据えると、個人で制作できるものの幅を広げられると思うんです。安くて手に入れやすいと失敗もできます。素材の値段が高いものだと、失敗を恐れたり、急にカッターで切るのが怖くなったりしますが、その心配がないと、いろいろ工夫ができる。
  例えば、日本ならご飯は究極のコモディティ。収穫した米を乾燥させて運搬するという流れが完全にコモディティ化されていて、誰にでも手に入る素材になっている。そして、さまざまな加工の余地が残っています。炊くにしても水分や熱をどれくらい与えるか、ふんわり炊いたり、べちゃべちゃにしたりという具合です。
  コモディティ化されたマテリアルが豊富にあると、いろいろな工夫を毎日でも行えます。磁性触覚印刷技術においても、そのような工夫の余地を作っておくことで、もの作りの可能性を広げたいと思ってるんです。

磁性触覚印刷技術。S極とN極をパタン着磁したシートを重ね動かすことで、
ボコボコとした凹凸感を提示することができる。

安 謙太郎
安 謙太郎
NTTコミュニケーション科学基礎研究所

研究主任。博士(メディアデザイン)。身近な素材を用いた創造の幅を広げるツールとインタフェースの研究開発を行なう。


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