ハプティックラボ探検隊 [探検先]武術研究者:甲野善紀氏
なぜ武術の達人には攻撃を当てることができないのか?
古武術を始めとする武術研究者である甲野善紀氏(69 歳)は、体を上手に使うことで発生する不思議な力に気が付いたといいます。人本来の体の使い方を探り、それを伝える甲野氏の考え方を体感させてもらいました。
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—甲野さんが体得したワザについて教えてください。

甲野:50 年近く研究してきているので、たくさんあるのですが、そのうちのひとつを紹介します。私がこうやって拳を打ち込むので、手でかわせますか?(バシッ)

—えい! あ、避けることができましたよ!

甲野:はい。どんなに不意打ちをしても、相手の動きを予測すれば、だいたい避けられますよね。……では、これはどうですか?(バシッ)

—避けることができません……。なぜでしょうか?

甲野:私の拳が、打とうとする意識なしに打ち出されているからです。予期させない状態からの攻撃は、かわせません。これは攻撃を受けるときにも応用できます。例えば刀で斬るとき、相手がいると確信した場所に打ち込みますよね。相手が避けても、避ける方向に打ち込めば当たります。実際に竹刀で打ち込んでみてください。

—エイ! あれ、甲野さんに竹刀を当てることができま せんね……。

甲野:足で蹴り出して左右に避けていては、相手に気配や動きの方向が伝わってしまいます。イメージとしては、自分を二人用意して、ひとりを意識としてその場に残し、実体は避けている感覚なんです。攻撃するときは“ 我ならざる我” が攻撃し、受けるときは“ 我ならざる我” が攻撃をかわしているのです。この動きに必要なのは瞬発力や力ではなく、スムーズな力の入れ具合の修得です。筋肉に力を入れるときに、単純にオン/オフを切り替えるのではなく、全身の筋肉に緊張と弛緩のグラデーションが必要なのです。

—とりあえず、やり方が全然わかりません。

甲野:今は、私が発見したこういった体の使い方を、いろいろな人たちに伝えている最中です。最初に感覚をつかんでもらうまでがたいへんなんですけどね。

—修行に励みます……。

竹刀を打ち込む先にいるはずの甲野氏が、打ち込んだときにはいないという不思議な感覚になる。



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