「シナスタジア X1 2.44」体験記

Media Ambition Tokyo 2019.02.23 - 03.03 @六本木ヒルズ 東京シティビュー 
http://mediaambitiontokyo.jp/synesthesialab/

Designed by シナスタジアラボ Creative Direction:水口哲也(Enhance)、ほか
Audio Architecture by See by Your Ears Composition&Programming:evala、ほか

先端テクノロジーを用いたアートが集合する「Media Ambition Tokyo」。同展に登場した注目のハプティック作品をレポートする。

レポート:編集部


  本作は、その名のとおり2チャンネルの音声と44チャンネルの振動によって構成される体験型作品である。これまで触覚デバイスは、振動だけでなく電気刺激などさまざまな刺激方式が提案されてきたが、振動だけで44チャンネル同時刺激というのは非常に珍しく、「刺激が44になることで何が変わるのか?」というのがこの体験の大きなテーマである。

  体験は、44の振動部で構成された黒いイスに座るところから始まる。イスと言っても滑らかな座面ではなく、ウレタンで覆われた人間の拳よりやや大きい44の振動部が、足裏から大腿部、背中、頭、両腕、手まで、一定距離をおいて設置されている。まず気が付くのは、振動部位が44もあると、振動だけで図(Figure)と地(Ground)を作ることができることである。意識的に注意が行く対象を図、背景となる環境を地という。例えば、電車でスマホを見ているとき、スマホのコンテンツは図で、背景となる電車内の人や外の風景は地となる。心理学だと「ルビンの壺」が有名で、絵の内側に注意を向けると壺に見えるが、外側に注意を向けると向き合った2人の横顔に見える絵がある。意識の向け方で図と地が入れ替わるのである。本作品は、このような図と地を触覚で作れるのが面白く、振動の図が身体のあちこちでうごめき、入れ替わったりする。

  また、触覚は同時に4つ以上の刺激を認知するのが難しいと言われている。実際、手や足や背中に振動がたくさん現れると、身体に起きていることを意識的に理解することができない。ただし、理解ができなくても情動的反応は生じている。情動的反応とは、外部からの刺激に対して生じる、やや短い時間スパンの、心の状態と関連する身体反応のことであり、意識に上らないことも多い。一方、よく使われる「感情」は、身体反応を伴う心の状態の意識的な体験。大雑把な例えだが、山を歩いていて目の前に突然、熊が現れたとする。すると、瞳孔は拡大し、鼓動が速くなる。このときの瞳孔や鼓動の身体反応が情動的反応であり、「あ、怖い」と感じるのが感情だ。つまり、この体験で実現された同時多数の触覚刺激は、意識で把握することは難しいが、言葉にならない意識下へアクセスするものである。そして、だからこそ、人に伝えるときに、体験者それぞれはそれぞれの人生経験に基づいて言葉を紡ぎ出すことになる。

リクライニングして寝かせた状態のシートのような形状に、44個の振動部が並ぶ。体験者は、頭から両手両足、足の裏までその上に横たえた状態で装置に体を預けることになる。

振動部にはそれぞれシリンダーが装着されており、個別に振動をコントロールできる。体験するうちに、スピーカーから流れる音と装置からの振動との境目も曖昧になり、交じりあってくる。

見るときの意識の向け方で壺に見えたり、向かい合う2人の横顔に見えたりする「ルビンの壺」。「シナスタジア X1 2.44」の体験は、多数の触覚振動による図と地の形成でもあった。



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