調理のテクスチャを体感するコース料理

秋の初風 —触と食—

2023.10.12/「 鮨 玉かがり 天ぷら 玉衣」グランドニッコー東京台場

NTTでは、食と触覚を組み合わせ、これからの食の新しい体験を生み出す研究を行っています。今回は、全日本・食学会と協働し、料理人が調理する際に生じる振動の体験を食のコースに取り入れた、「触と食」の関係を追求する体験会を実施しました。

触覚は食の体験にどのような影響を与えるのか、食の新しい体験を探る体験会が行われました。場所は、グランドニッコー東京台場の「鮨 玉かがり天ぷら 玉衣」(料理長 高野竜一氏)。

今回のメニューは「秋の初風 ─触と食─」と銘打たれた六品で、メインとなる「穴子の試触(ししょく)」の二品で特別な仕掛けが用意されていました。

まず「一の試触 活き・捌さばき・揚げ」は、穴子の天ぷら。天ぷらがサーブされる直前に、体験者の前にはタブレットの画面が組み込まれた上品な木箱が運ばれてきます(写真1)。体験者は箱を手に持ち、映像を視聴します。映像は天ぷらの調理の様子を事前に記録したものですが、装置の内部には2つの振動子が組み込まれており、映像と同時に記録された振動を再現し、手元に伝わる仕組みになっています。

体験会では1台の装置を2人で持って体感しました

[写真1] 体験会では1台の装置を2人で持って体感しました。装置の画面上に調理中の映像が流れ、内部に装着された2つの振動子から、そのときの振動が木箱を通して手元に伝わる仕組みです。

映像は、素材である穴子から始まります。活きのいい穴子がうねるときの振動が、箱から伝わります。次にまな板の上で見事にさばかれていきます。その際、包丁が身と中骨の間を通ったり、ひれをそぎ落としたりするときの振動が感じられます。そして、油で揚げるときに泡立つ油の振動も伝わります。油に浸したときの激しく油が跳ねるところから、徐々に細かい泡になっていく感触も手から感じられます(写真2)。ちょうど体験し終えたタイミングで調理された天ぷらが運ばれ、体験者は揚げたての天ぷらをいただきます。

続く「二の試触 捌さばき・炭焼き」は、穴子の炭焼き寿司。映像は、穴子をさばくところから始まり、穴子の皮目におき火となった炭を置いて焼き色を付けるシーンが流れます。その際の皮が焼ける振動が装置から伝わってきます。その後、握られた穴子寿司が登場し、体験者は握りたての寿司を味わいました。

体験者からは、「天ぷらを揚げているときのバイブレーションは、料理を口に入れたときの感覚にピッタリで、すごい効果があった」「炭焼き寿司は炭で焼けるときのカリッと焼き上がった印象が強く残り、口に入れたときの柔らかい口当たりにはギャップを感じた」といった感想がありました。

また、目の前で調理を見ているだけでは体感できない触感という要素が加わると、料理の演出としても斬新で、従来とは異なる食体験の糸口が見えたという声が出ました。食事の体験価値を上げる要素としての触感に、大きな可能性を見いだした体験会となりました。

穴子の天ぷらの調理中に、体験者は別室で装置を手に持って、料理人目線での映像と振動を体感します
実際の天ぷらが運ばれてきて料理を口にすると、その際の体験と天ぷらのクリスピーな歯ごたえがマッチして、新しい食体験が生まれました

[写真2] 穴子の天ぷらの調理中に、体験者は別室で装置を手に持って、料理人目線での映像と振動を体感します。実際の天ぷらが運ばれてきて料理を口にすると、その際の体験と天ぷらのクリスピーな歯ごたえがマッチして、新しい食体験が生まれました。


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