一般に、マテリアルとは、プロダクトを構成するさまざまな素材のことだと考えられています。従来のマテリアルの概念を超えた新しい素材との出会いを提案する「Material ConneXion Tokyo」の吉川久美子さんに話を伺いました。
Material C onneXion Tokyo
吉川 久美子
株式会社エムクロッシング 代表取締役
2013年の設立当初よりマテリアルコネクション東京に携わる。素材を探す人と作る人をつなぐプラットフォームを通じて、業界を横断した新しい発想の製品を生み出すきっかけとなる場を目指す。
http://jp.materialconnexion.com
世界中から集められた素材との出会いの場
—マテリアルコネクションについて教えてください
吉川:ここ「Material ConneXion Tokyo」は、現在世界に7つあるマテリアルコネクションの拠点のひとつです。会員専用のライブラリでは1600を超える素材を常設展示して、実際に触っていただけます。会員には、企業の先行開発、商品企画、建築事務所の方からフリーランスのデザイナーまでさまざまなジャンルの方がいます。素材は毎月約40点ほど追加されるので、年間で500点ぐらい増えますね。Webサイトには、7500点以上の素材がデータベース化されています。—ここで扱う素材は誰が決めているのですか?
吉川:7つの拠点がそれぞれの国で調査したものを最終的にニューヨークに集めて審査します。先進性や新規性の有無、新規性がなくても改良されているか、汎用性、サスティナビリティへの配慮などを基準に選定しています。ライブラリでは、素材そのものというよりは、その素材を使ってある程度加工された状態のものを扱っています。例えば、「塩ビ」と聞いて一般的に想像するのは、パイプなどに利用されている樹脂のような素材ですが、ここでは糸を塩ビでコーティングしたものを展示しています。コーティング技術を駆使した塩ビのファブリックは強くて汚れにくいので、例えばコースターなどに利用できます。このように、単なる糸や塩ビではなく、実際に訪れた人が触ってみたときに製品のヒントになるような、素材とプロダクトの中間に位置するものを、マテリアルとして展示しています。—つまりここでのマテリアルとは、素材そのものから一歩進めた状態ということですね。
吉川:そうです。展示は、メーカー名などは一切出さず、まずはマテリアルに触れてもらって、そこからどういうことに使えそうかということを発想してもらえる場として設計しています。メーカーなどから出展料をいただいて展示するのではなく、厳選されたマテリアルのライブラリとしての価値を高めるという考えです。インスピレーションを生み出すディスプレイの工夫
—ディスプレイで気を付けていることはありますか?
吉川:基本的には「自然素材」「ポリマー(樹脂)」「プロセス(加工技術)」といったカテゴリーで分けていますが、レザーの並びにフェイクレザーを入れるなど、関連性を軸に並べている場合もあります。展示されるマテリアルは、素材そのものから一歩加工されたもの。具体的なプロダクトへの
ヒントとなる状態で並んでおり、固さや手触りなど実際に触感を確認することができる。
—見る人の業種によって、展示されているマテリアルの見方に違いがあるのでしょうか?
吉川:業種の違いももちろんありますが、それ以前に人によって違いがある印象です。触り方もいろいろで、両手で触る方、撫でる方、とりあえず全部引っ張って伸ばしてみる方とか(笑)。見方の違いで面白かったのは、同じ建築という業種でも、床材のメーカーの方はまず下のほうに並んでいるものを見ていたのに、壁のメーカーの方は上のほうを見ていたことですね。特に床材が下に配置されているわけではないんです。つい目線が下に行ってしまうみたいです。1600点を超える厳選されたマテリアルが展示される、会員専用のマテリアルライブラリ。
説明を聞きながら見て回ることも可能。
マテリアルの存在を知ることが次のアイデアにつながる
—ユニークな利用の仕方などあれば。
吉川:以前、叩いたときに出る音を知りたいという方がライブラリで実際に素材の音を調べたり、映像系の方が映写すると面白い効果が出るテクスチャを探しに来たことがありました。製品開発以外の領域でも活用していただけるとうれしいですね。店頭に並んでいるものだけではなく、世の中にはもっと多くの意外で面白いマテリアルがあるということを知ってもらえれば、そこからたくさんのアイデアが生まれると思います。—ほかに想像していないような用途で素材選びをした例はありましたか?
吉川:ちょっと変わったマテリアルですが、ヤギの胃袋をなめした革が展示してあるんです。用途は特に決まってなくて、私たちもどう使えばいいのか思い付かなかったものなのですが、華道の関係者の方が花器に使えないかと興味を持たれていました。このライブラリがなければ、なかなか生まれなかった接点だと思います。ライブラリでひときわ異彩を放っていたマテリアル、ヤギの第2胃から作ったなめし革。
これを花器に使えないか、という相談があったという。