見るものを熱狂させる力を持つプロレスのリング。そんなステージで、新エースとして華々しい活躍を魅せる新日本プロレスのオカダ・カズチカ選手に話を伺いました。リングとはどんな「場」なのか? 試合中の選手にとって相手選手や観客はどんな存在なのか? リング上のプロレスラーから見える景色を語ってもらいました。
オカダ・カズチカ
新日本プロレス所属
プロレスラー。プロレス界にカネの雨を降らせる男「レインメーカー」として活躍中。1987年生まれ。身長191cm、体重107kg。『THE NEW BEGINNING in OSAKA』[2019年2月11日(祝)/15:30開場・17:00開始/エディオンアリーナ大阪]に出場予定。
©新日本プロレス
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リングという「場」は観客と共に作り上げる
—プロレスは大小さまざまな場所で開催されますが、会場のサイズの違いがパフォーマンスに与える影響はありますか?
オカダ: どんな会場でもリング自体は変わりません。なので、リングに立ってしまえば意識の違いも出ないですね。もちろん、例えば東京ドームのような巨大な会場では遠くまで視線を向けるとか、より大勢にアピールするようになります。ただしお客さんは“いつものオカダ・カズチカ”を見たくて会場に来てくれていると思うので、環境に合わせて変えるのではなく、皆さんが期待している姿を見せられるように心がけています。—試合中、意識はどこに向けられていますか?
オカダ: 試合中は当然、対戦相手に最も集中しています。ただし、それ以外の情報も得ていますね。こっちが対戦相手のコーナーだな、あっちは凶器になるものが転がっているから行きたくないなとか(笑)。対戦相手に8割、残りは周囲360度に気を配る感覚です。お客さんを含めて、周囲も見ています。—激しい動きや技で、もうろうとする場面もあると思いますが、そんなときはどんな状態で試合をしているのでしょうか?
オカダ: 僕の場合、モノクロの世界で戦っていることがありますね。投げられてマットに叩き付けられて一瞬意識が飛んでいるとき、対戦相手にも周りの景色にも色がないんです。また試合に集中しすぎて、気付けば音が聞こえてないこともあります。—そんな激しい動きの中で試合を進めていくわけですが、 オカダさんにとっていい試合とはどんな試合ですか?
オカダ:ものすごくいい試合として記憶に残っているのは、歓声がものすごい試合ですね。これは選手も観客も同じなんじゃないかと思います。歓声が選手を盛り上げるし、歓声が観客のさらなる熱狂も生むんです。序盤はブーイングしている人も、試合が盛り上がるとブーイングする余裕がなくなるんですよ。試合に夢中になると、「勝てーっ!」とか「返せーっ!」といった叫びに変わるんですね。歓声は選手のファイトに対するフィードバックであり、欠かせない要素だと思います。オカダ選手のパフォーマンスに、観客の熱狂が渦巻くプロレスの試合会場。観客の歓声もプロレスの一部、欠かせないピースである。©新日本プロレス
オカダ選手のフィニッシュホールド「レインメーカー」が炸裂。新日本プロレス の最高峰であるIWGP王者として、最多連続防衛記録を持つ。©新日本プロレス
選手同士で作り出す「場」とプロレスならではの面白さ
—次に対戦相手についてですが、選手によってリズムが合う、グルーヴが合うといった感覚はありますか?
オカダ: もちろん選手もそれぞれなので、間がスゴく合う選手がいたり、自分のタイミングで動きにくい選手もいます。間をコントロールするのが上手な選手もいますね。「あ、こいつ、いいタイミングで場外に出たな!」とか(笑)。うまく間を支配されて、やりづらいこともありますよ。でも、それがその選手の特徴だし、プロレスの面白さにもつながっていると思います。—タッグマッチの場合はどうでしょうか?
オカダ: タッグマッチは、パートナーによって、疲れる・疲れないという違いがあります。まだ呼吸を整えているのにタッチされて、「え、もう!?」なんていうことも(笑)。ただ、プロレスのタッグマッチは、格闘技の中では独特なものです。1人ではダメな場合でも味方がサポートしてくれる……考えてみると、こんな格闘技はほかにないですよね。ボクシングの試合中に、負けてるからほかの選手がリングに入ってくる、なんてあり得ません(笑)。ここにも、プロレスならではの面白さがあります。—うまく試合を運ぶには、パートナーが重要ですね。
オカダ: そうなんです。強い2選手がタッグを組んだから最強、というわけでもない。タッグ独自の駆け引きがあります。だからタッグマッチは面白いし難しいんです。対戦相手が2人いて、タッグパートナーもいて、人が多いぶん単純に要素が多く、気にしなければならないことが増えます。タッグマッチがうまい人は、スムーズに2対1の状態にしたり、技からの流れで相手のパートナーを分断したりと、状況を作るのがうまい。タッグマッチで強い選手は「場」を支配できるプロレスラーかもしれません。僕はタッグはちょっと苦手なんですが(笑)。“ オカダ・カズチカ” としてプロレスを盛り上げる
—試合に臨むときや試合中は、観客にどんなことを感じて ほしいと考えていますか?
オカダ:テレビの向こうの視聴者を含めて、“オカダ・カズチカ” を感じてほしいと思っています。「届け! オレのカッコ良さ」 みたいな感じです(笑)。—以前は、“ちょっと生意気な若手”というキャラでしたね。
オカダ:そうですね。挑戦者の立場だったし、「新鋭選手が挑戦します」という話だと、お客さんも「がんばれよ」で終わってしまいます。生意気なキャラだったら、お客さんは「棚橋、こいつを黙らせてくれ!」といった気持ちになってくれる(笑)。どんなアプローチでもいいので、お客さんの心に触れて、盛り上がる状態に持っていきたいということです。もちろん生意気なキャラは、試合に勝つ自信がないと成立しませんけどね。—プロレスといえば、会場でのマイクパフォーマンスも観客 の楽しみのひとつですね。
オカダ:最初のころは自分ではあまりしゃべらなかったんです。最近は、自分の言葉で話さないとダメなんだなと思うようになりました。やはり、オカダ・カズチカの今の気持ちを聞きたいというお客さんもいるでしょうし、現場でコミュニケーションも取りたい。最初は慣れなかったんですが……、いや、いまだに怪しいことがありますけどね(笑)。選手によって盛り上げ方はいろいろありますが、お客さんが入った会場を含めて、プロレスが作り出す「場」です。僕は、立ち上がって歓声を上げているお客さんを見るのが好きなんです。そんな熱い会場を作っていきたいので、これからも先頭に立ってプロレスを盛り上げていきたいですね。
プロレスラーのイメージも変えていきたいというオカダ選手。会場では観客の 前に出る直前にスイッチが入り、“ オカダ・カズチカ” となってリングに上がる。