Column:UXを巡る旅 [第6回] 住民が参加する共創の場のデザイン

住民参加型の共創の「場」が持つ課題

  近年、社会課題の解決などを目的としたサービスづくりのアプローチとして「リビングラボ」という方法論が注目されています。リビングラボとは、サービスのつくり手である企業や行政と住民が、サービスを共に創る(共創する)方法論のことを指します。リビングラボでは、住民と対話しながら、住民と一緒に、地域課題を解決するためのサービスを検討します。
  「住民との共創」を効果的に実施することは、実は簡単なことではありません。特に日本の場合、複数の人が集まって対話・議論するような場では、声が大きい人だけが発言する、なかなか本音を言えない人が多い、といった問題が頻繁に起きます。そのため、多くの住民に多様な声を上げてもらうには、みんなが発言しやすい「場」をいかにつくるか、ということが重要になります。
  われわれはこれまでに、共創の場づくりのためのノウハウを蓄積してきました。例えば、住民参加型の共創の場づくりで大切なことは、対話・議論を行う人数をコントロールすることです。議論を行う場にあまりに多くの人が集まってしまうと、声を上げられない人が必ず出てきてしまいます。住民参加型で課題やアイデアを考える場合、対話・議論する人の数は、4~10人が効果的です。人数が多い場合は参加者をグループ分けするなどして、数をコントロールします。
  また、共創の場では、自分の意見や考えを外在化してから発言してもらうという方法も効果的です。例えば、住民が集まって対話を始める前に、まず自分の意見を付箋紙に書いてもらいます。こうすることで、それぞれの住民が“発言のためのネタ”を手に持っている状態をつくることができ、すべての住民に平等に発言を促すことができます。

重要なのは共創の場を継続すること

  良い共創の場をつくる上で、もうひとつ重要な視点があります。それは、共創の場を、何度も継続して設けることです。継続的な場ができると、住民自身が何度も「自分たち」について考え直すことになり、自分たちの状況や課題に対する理解を深めていきます。このことは、住民の方々が、自分の直面する問題について学習し、当事者意識を深めていく過程そのものなのです。このような学習過程があることで、住民の方々が、議論されている課題やアイデアを「自分ごと」として認識するようになり、その結果、より建設的な意見や新たな視点を提示してくれるようになります。
  ここで述べた内容は、共創の場づくりを効果的に進めるためのノウハウの一例です。われわれの研究チームでは、こういったノウハウを整理し、「リビングラボの手引き」という冊子にまとめました。ご興味のある方は、cocri-ml _at_ hco.ntt.co.jp(※_at_を@に置き換えてください。)までご連絡ください。

『リビングラボの手引き』
リビングラボ実践者の経験を元に抽出した、共創の場のつくり方に関する 30のコツを収録。共創の場づくりを実践している人、これから実践したい人にとって役立つノウハウが整理されている。また本書は、デンマーク工科大学とNTTの共同研究の成果となっている。

赤坂 文弥
赤坂 文弥
NTT サービスエボリューション研究所

研究員、博士(工学)。設計学やサービス工学、システム思考の観点から、Service Design、Living Labの研究に従事。社会に役立つサービスをデザインするための方法論創出や実践知の抽出・表現を主なテーマとしている。

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