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音を便りに地域の輪郭が立ち上がる

フィールドレコーディングのすすめ

ふと耳にした音に遠い記憶が呼び起こされる──フィールドレコーディングは、そんな体験を生み出します。その場で録音した音は、普段耳で聞いている音とは違って聞こえる──見慣れたはずの街を見つめ直すフィールドレコーディングについて、NTT東日本 地域循環型ミライ研究所の原田拓哉さんとNTT社会情報研究所の駒﨑 掲さんに話を聞きました。

原田拓哉

原田 拓哉
Takuya Harada

NTT東日本 地域循環型ミライ研究所。2021年11月にNTT東日本へ中途入社。自治体観光課への非常勤出向などを経て、2023年10月より地域循環型ミライ研究所に所属。地域文化資源のデジタル化や「地域の音」を活用した地域愛醸成、関係人口創出などの調査研究に従事。

駒﨑 掲

駒﨑 掲
Kakagu Komazaki

NTT株式会社 社会情報研究所。オーディオメーカーにて、プロダクト・デザイン、サウンド・デザイン、音の体験のデザインなど音に関わるデザイナーを経て、現在に至る。音や振動を通信を介して共有する体験のデザインの研究に従事。

録音して初めて聞こえる音がある

—お二人がフィールドレコーディングに関わるようになったきっかけを教えてください。

原田拓哉(以下、原田):地域循環型ミライ研究所では、地域に根付いた文化や自然といった資源を生かして新しい価値をつくり、住んでいる方の地域愛着や外部からの関係人口を増やし、地域に関わる人たちのウェルビーイングを高めるなどの研究を行っています。2年ほど前から新潟県小千谷市でフィールドレコーディングのプロジェクト「小千谷音り(おぢやたより)」を始めたのがきっかけでした。

駒﨑 掲(以下、駒﨑):前職のオーディオメーカーに勤めていたときに、森の音をライブ配信する「Forest Notes(フォレストノーツ)」という取り組みを担当していました。森の中などにマイクを設置し、その場所ならではの地域の音を伝えるというサービスです。その活動の中で、先駆者の方々にノウハウを学んできました。

—フィールドレコーディングの面白さは、どんなところにありますか?

駒﨑:まず、耳で聞いている音と録音した音では印象が違うところです。人間の脳は、必要な音だけを聞いて雑踏などのノイズは無意識にキャンセルするんです。でも録音すると、「こんな音が鳴っていたんだ」とあとで気が付きます。同時に、フィールドレコーディングは客観的な行為のようでいて、その人の環境との向き合い方で録音の着眼点が変わります。音そのものも、時間や季節で変化し、数分違うだけでも変わります。

そして、SNSの写真や動画できれいな景色を見てからそこに行くと、現場で「答え合わせ」のようになりがちですが、音で場所を探すと、自分の想像を超えた世界がそこにあったりする。そういうよさが、音にはあります。

原田:「小千谷音り」では、地元の人たちが地域にまつわるさまざまな音を集めました。その音は、カエルの鳴き声、体育館でのバレーボールの練習音、夏祭りのおはやしや花火の音など、それぞれの音に、その人だけの思い出や記憶が込められていました。音は懐かしい思い出や風景を呼び起こす力があり、その音を集めることは、その土地の新たな魅力を掘り起こし、地域の愛着につながるのではないかと思います。

まずはスマホ片手に歩き出してみる

—同じ地域でも、人によって集める音は変わってきますか?

原田:小千谷市でワークショップをやったときに、実家が農家で、棚田で農業をされている方がコンバインで稲刈りする現場を録音してきてくれました。「単にうるさい」と思っていたコンバインの音を聞き直すと、コンバインの移動音や刈ったワラを排出する音など、さまざまな音が重なって「コンバインの音」になっていたことに気付いたそうです。こうした気付きに立ち会えるところも、フィールドレコーディングの特徴だと感じます。

ほかにも、学生のとき毎日乗っていた列車の音をとってきた方がいました。ディーゼル車で、本数も数時間に1本。朝の「7時32分」の一本を狙って録音し、「高校3年間、休まず私を運んでくれた音」というご本人のコメントが添えられていました。ストーリーと音が一緒になると、それを聞いた人にも気持ちが届くと思えた瞬間でした。

—フィールドレコーディングを行うときに、押さえておきたいコツはありますか?

駒﨑:変化を感じるために、できれば3分くらいは録音してほしいです。本当はもっと長くとれるといいですね。一方で、録音中はノイズを起こしてはいけません。音を出さないように注意しながらだと、最初の数分間は結構しんどいんです。実は自分自身も空間の中の音の要素の一つであることにも気付きます。録音機材を持つ手のノイズや服のちょっとしたきぬ擦れの音なども録音されます。自分で起こしている音って普段は意識しませんが、録音すると、そういった音も気になります。そのため、確認も大事な作業で、録音後にヘッドホンで聞き直すと、「思ったようにとれた」とか「もっとこうした方がよかった」という思いも生まれてきます。

原田:私たちのワークショップでは、ご自身のスマートフォンで録音してもらっています。最近のスマホは性能がよく、アプリの設定を少しいじれば十分きれいに録音できます。また、iPhoneならマイクがある本体下部を音源に向けたり、風の強い日は風切り音を防ぐためにタオルや靴下でマイクの周辺を覆ったりするなど、ちょっとした工夫を加えても効果があります。あとは、自分にとっての思い出やストーリー、その音にまつわる背景を大事にしてほしいです。

—最後に、これからフィールドレコーディングにチャレンジしてみたい方へひと言お願いします。

駒﨑:以前、冬休みに実家の福島に新幹線で帰る道中、降りるまでの音を記録してみたんです。ドアが「プシュッ」と開く音とともに、暖かい車内から、急に雪が吹き荒れる駅へ降り立ったのですが、吹雪の音、気圧の変化と温度差が、音だけですごく感じられました。逆にセミの鳴き声だと、そこから暑さを感じたりと、音が持つ季節感や体験を共有できる面白さにも注目してほしいです。

原田:まずは、思い出のある場所に行って録音してみてほしいです。通学していた道や、自分の思い出とひも付いている場所だと、音だけで懐かしい気持ちになれるところが音の魅力だと思います。そして何より、楽しんでレコーディングしてほしいということです。そうした思いや行動が、地域への愛着につながる入り口になれば、と思っています。

小千谷市でフィールドレコーディングを行う原田さん

小千谷市でフィールドレコーディングを行う原田さん。録音機材に防風カバーを装着し、イヤホンでモニターしながら録音を行った。

スマホでフィールドレコーディング
すぐに役立つ6つのコツ

①マイクを対象物に向ける(スマホは逆さに持つ)
例えばiPhoneは、本体下部にマイクがあるので、録音対象に向けるには、本体を逆さに持つのが基本。マイクの位置と方向を確かめてから始めましょう。
②防風カバーはタオルや靴下でも代用できる
屋外で風の強い日だと風切り音が入り続けてしまいます。マイクをタオルや靴下で覆うだけで、格段にきれいに録音できます。
③録音設定は「ロスレス圧縮」「高音質」に
スマホのボイスメモアプリなどの設定には、音質を変更する機能があります。「ロスレス」などを選択しておくと、あとから音を調整できる範囲が広がります。
④大きな音は少し離れてとる
大音量の場面では、音源に近づきすぎないこと。音量を自動調整するアプリもありますが、音源が近すぎると音が割れてしまうことがあります。
⑤1~3分程度は録音する
録音時間が短すぎると、その場の空気感が消えてしまいます。録音したい時間よりも長めに、余裕を持たせてとりましょう。
⑥録音したら必ずヘッドホン・イヤホンで聞き返す
その場では気付かなかった音や、自分が立てていた物音に気付けます。ノイズが入るなど、思ったように録音できていなかったら、再度録音してみましょう。

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