非言語情報が生み出すコミュニケーションのリアリティ
大塚和弘
大塚 和弘

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚共鳴研究グループ 主幹研究員
専門領域:対面・遠隔会話場面における非言語行動の解析、数理モデル化、および、テレプレゼンスアバターによるコミュニケーション場の再構成.

自然な遠隔コミュニケーションの原理・方式を探るための会話場再構成システム「MM-Space」を研究している、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 大塚和弘主幹研究員にお話を伺いました。

作りながら、コミュニケーションを理解する

大塚さんの研究についてお聞かせください。

大塚: 人のコミュニケーション、特に複数人がいる場面でのコミュニケーションの構造を、非言語的振る舞い、例えば、視線やジェスチャーを観測し、分析することで明らかにしたいというモチベーションで研究しています。アイコンタクトや頭の動きから、誰が誰に向かって話しているとか、誰が誰に対して共感しているということが分かります。そして、分析するだけではなく、遠隔地間でより自然に、家族と対面しているかのようなコミュニケーションの仕組みを作ろうというのが「MM-Space」というプロジェクトです。複数の人が遠隔で話せるシステムを作って、その様子をまた分析し、システムの改良を行うとともに、コミュニケーションの実態に迫るという、両輪で研究を進めています。

MM-Spaceの特徴は?

大塚: できるだけシンプルに、コミュニケーションのリアリティを作りだすことを目指しています。そこにはいろいろな考えがあって、人間の顔の形まですっかりコピーすればいいという考えもありますが、一方で、人間の動きの情報だけでもそれを鮮烈に伝えることで、多くの非言語情報が伝わるのではないかと。やっていることは極めて単純で、遠隔地の自分のアバター、自分の顔が映し出された四角い透明のパネルなのですが、そこに頭の動きを精密にコピーしているだけなのです。自分の顔の映像は、相手の位置から撮影したものなので、相手とアイコンタクトができます。相手のアバターも、同じく、自分のアバターの位置から撮影された映像が映し出されているので、相互にもアイコンタクトができます。(下の写真では)こちらに2人、遠隔地に2人で、合計4人いるのですが、こちらを見たらこの人とアイコンタクト、あちらを見たらあちらの人とアイコンタクトができるという仕掛けで、いわゆる目と目を合わせてコミュニケーションをしている感じがします。ちなみに、「MM- Space」のMは、マルチプル(Multiple)のM、マルチパーティー、マルチモーダル、マルチロケーション、いろいろなMということで。



1人を調べて分からないことが、複数人を調べると分かる

コミュニケーションの研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

大塚: 会社に入った時は、天気予報の気象レーダー画像を解析して、いつどこで雨が降るかを予測する画像解析の研究をしていました。画像をうまく解析することで、世の中の動きを知りたい、予想したいというところから始まりました。その後しばらくして、コミュニケーションの研究を始めましたが、我々が面と向かって話しているような、コミュニケーションのリアルな場面を対象にした研究をしたいと思いました。コミュニケーションは、一人一人がバラバラに動くのではなくて、複数の人が瞬時に関係を調整しながら紡がれるものです。そういった意識にも上らない、人間の仕組みが不思議だと思うのと、それを定量的に観察して、自然科学の遡上として議論したいと思ったのです。

複数人のコミュニケーションではどんな情報が重要なのでしょうか?

大塚: 複数人のコミュニケーションでは、ターンテイキングといって、自分が話し終わったら相手が話すという、話し手の交代が順に行われます。そのために会話の参加者は、会話の場の状況、空気ともいえますが、そういうものを把握してうまく行動を調整しています。話者の頭の動きに合わせてパネルが動く「MM-Space」でコミュニケーションを行うと、話者の視線の振る舞いが対面会話、Face to Faceに近くなります。パネルの動きを止めてしまうと、キョロキョロしてしまって、次に誰が話すのか、余計に人の反応を伺う必要がでてきます。次に誰がしゃべり始めるかは、周りの人の頭の動きがあれば察知しやすいということです。個人個人の微妙な動きや、全体の動きの場みたいなものから何かを感じ取って、複数人でのターンテイキングが調整されていると思われます。また、言葉以外の様々な非言語的、無意識的なものが場を構成し、それが時間的にシンクロしたりして、お互いに自分の言っていることが相手に伝わっているという感じも伝わってきます。そういう暗黙のルール、非言語の情報が、コミュニケーションのリアリティには不可欠ですね。

>>>「MM-Space 」の詳細はウェブサイトへ
http://www.kecl.ntt.co.jp/people/otsuka.kazuhiro/MMSpaceJ.html


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