触感が誘う“本能欲求”が 人を遊びに夢中にさせる
永遠にプチプチを潰し続けられる「∞(むげん)プチプチ」。ただただ触感を楽しむためのおもちゃですが、商品化に際しては、人の本能欲求とでも呼ぶべき、あらがえない触感への欲求をついたアイデアがありました。企画開発した、株式会社ウサギの高橋晋平さんに話を伺いました。
高橋 晋平
高橋 晋平

株式会社ウサギ代表取締役 クリエイター
1979年生まれ。株式会社バンダイで、人を笑わせるバラエティ玩具の開発を担当。累計335万個を販売し、第1回日本おもちゃ大賞を受賞した「∞(むげん)プチプチ」や、「∞エダマメ」、本名を冠した「瞬間決着ゲーム シンペイ」をはじめ、5 0点以上のおもちゃの企画開発に携わる。退社後、株式会社ウサギを設立。おもちゃやゲームの企画開発の他、ミュージシャン「がんばんべあ」のプロデュースなど幅広く活躍中。著書に『アイデアが枯れない頭のつくり方』(CCCメディアハウス)など。

ボードゲームの楽しさはルールの面白さだけではない

—まず、高橋さんのこれまでの経歴を教えてください。

高橋: 僕は2004年に、おもちゃメーカーの株式会社バンダイに入社して、おもちゃの開発やマーケティングに10年ほど携わってきました。バンダイはキャラクターグッズがメインのメーカーですが、僕が担当していたのはジョークトイやボードゲームなど、子供から大人までをターゲットとしたおもちゃでした。2014年に独立して、現在はさまざまな商品の企画開発、プロデュースなどを行っています。

—バンダイではどのようなおもちゃを開発されたのですか?

高橋: 代表作は、「∞(むげん)プチプチ」「∞エダマメ」という、つい触りたくなる玩具シリーズです。その他にも、ガシャポンの商品など、多数のおもちゃを作りました。業界では面白いギャグ商品を作るヤツとして認知されていましたが、それと同じくらいボードゲームも企画しました。入社2年目のときに「瞬間決着ゲーム シンペイ」というボードゲームを商品化したのですが、実はこれ、僕が高校時代に考えた「新三目並べ」というゲームがベースだったんです。でも、この頃はまだボードゲームのことが全然わかってなかったなと、後になって気が付きました。

瞬間決着ゲーム シンペイ コンパクト
高橋さんの本名を冠したボードゲーム。高校時代に「すぐに終わらない三目並べ」を作ろうとしたのが、制作のきっかけ。コンパクトでは、触感に工夫を加えた。


—わかってなかったというのは、どんなところでしょうか?

高橋: 当時は、ボードゲームの楽しさというのは、とにかくルールの面白さだろうと考えていました。それはもちろんそうなのですが、こだわるべきポイントは他にもあって、特に触り心地やコマを置いたときの気持ちよさがとても重要なんです。例えば、オセロはコマをひっくり返す動作が楽しいですが、マグネット版だともっと楽しいと感じます。その辺りの考えが、シンペイでは不足していました。このゲームは、コマを正位置で直立させる状態と、逆さまにして穴に挿す状態の2つの置き方があるのですが、コマを置くときにパチッと立つとか、穴に挿すときにキュッと刺さるといった感触の工夫があれば、プレイヤーにこのゲーム自体にもっとハマってもらえたということに、後で気付いたんです。
  ルールが面白いゲームは遊んでもらえますが、さらに触り心地のいいゲームは繰り返し遊んでもらえます。その後に小型の「シンペイ コンパクト」を出したのですが、そのときにはこの点にはこだわって“遊び”が非常によくなったと思います。そのおかげかどうかは定かではないですが、数としては初代の何倍も売れました。

—もし、制作費などを度外視してシンペイのコマを作り直していいと言われたら、今だったらどんな風にしますか?

高橋: 実は当時は、材質はABSの一択だったんですね。今作るとするなら、コマをツルツルさせたくないので、表面にラバーを使ったりするかもしれません。形ももう少し持ちやすくして、持ったときにしっかりとした感触を与えたいですね。それと、やはり磁石を組み込みたいです。普通に置くときも、ひっくり返したときにも、盤面にパチッとくっつくようにしたいですね。刺さるよりも磁石でくっつくほうが、感触としてクセになります。


カードを「ペシッ」と出す感覚がゲームを盛り上げる

—高橋さんは、昔からボードゲームなどのゲームがお好きだったんですか?

高橋: いや、実は入社するまでゲームは全然やっていませんでした。ゲーム開発を担当することになって、手始めにドイツのボードゲーム「カタン」を研究し始めたんです。大会にも出てみたんですけど、予選で大人相手に中学生の男の子が圧勝したんですよ。それでこのゲームの面白さや奥深さを知って、そのあとハマってずっとやってました。あとは、いわゆるトレーディングカードゲームですね。これも研究のために始めたらハマってしまって。こういうゲームではモンスターを召還するときにカードを出すんですけど、それを「ペシッ」と出すときの“ペシ感”が重要で、戦いが盛り上がるんですよね。ちょうど僕は「民芸スタジアム」という、全国47都道府県を代表する民芸品をバトルさせるカードゲームを開発して発売したばかりなのですが、これもカードの質感を大切にしています。アナログゲームは人から人に伝わるゲームだから、触ったときの感触でがっかりされると遊ばれなくて、広がらないんですよ。

民芸スタジアム
カードの感触にこだわったというカードゲーム「民芸スタジアム」は、高橋さんの最新 の作品。カードだけでなく、購入者が最初に触れる外箱の質感にもこだわった。




「触りたい」という欲求を商品に盛り込んだ「∞プチプチ」

—こだわる部分は、物理的な感触というわけですね。感触といえば、感触そのものを追求した大ヒット商品「∞(むげん)プチプチ」 ですが、開発のきっかけは何だったんでしょう?

高橋: ちょうどニンテンドーDSが出てブレイクしたときで、アナログゲームの売れ行きが厳しく、企画がなかなか通らなかったんですね。企画会議の前日、もうどうすればいいかわからなくてオフィスを見回すと、そこに梱包用のプチプチのロールがあって、その突起がボタンに見えたんです。シリコン的な柔らかい素材に何かスイッチのようなものを入れたら、擬似的にプチプチが作れるんじゃないかと思い立って、その時はあまり深く考えずに、アナログゲームとは全然関係のないプチプチキーホルダーみたいなことを企画にまとめたんです。会議で提案したところ、全員無反応でした。みんなどう捉えていいのかわからなかったんだと思います。でも、僕自身はそのアイデアがすごく気に入っちゃったんです。

—自分で思い付いた企画にのめり込んでいったわけですね。

高橋: そうなんです。それで何とか形にしたいと、プチプチのことを調べました。プチプチは川上産業株式会社さんの商品で、オフィシャルブックがあるのですが、これがプチプチに関するあらゆるネタが入ったいい本なんです。冒頭に「人はプチプチを見たら潰さずにはいられなくなります」と書いてあって、まさに「これだ」と思いました。でも、プレゼン会議では他の強力なキャラクター商品が並ぶんです。そこで一計を案じて、会議のときに資料と一緒にプチプチを配ったんですね。そしたら、みんなプレゼンする前にプチプチ潰し始めたんですよ。すかさず、「このように、人はプチプチを見たら潰してしまうのです」と切り出して、いつまでも潰せる「∞プチプチ」という商品を店頭に中身が見えるように吊るして、買わないと潰せないようになってます、見たら押したくなってみんな買います、みたいな感じでプレゼンしたら、当時の部長が「面白いからやろう」と言ってくれたんです。
  商談でも同じように考えました。通常の商談なら、まず「どうぞ手に取って遊んでみてください」という感じですぐにサンプルを渡すじゃないですか。でも、∞プチプチのときは、商品説明をしてサンプルは見せるんですけど、なかなか触らせないんですね。そうやって説明していると、「早く貸してよ」と言ってみんな触りたがるんです。そこで「でしょう?」という感じで、∞プチプチの魅力を体感してもらったりしました。おもちゃというのは本来触るための存在で、∞プチプチはそれを全力で追求したから大ヒットしたのではないかと、今になって思います。

「∞プチプチ」
累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」。一般的なプチプチと同じサイズで設計されており、潰す感触と同時にサウンドも再現する。プチプチを見たら潰さずにはいられないという、人の欲求をついたジョークトイ。



—触りたい、という欲求に勝てなくなるんですね

高橋: はい。∞プチプチを通して、人の“ 本能欲求”のようなものの存在を意識するようになりました。世の中には人があらがえない魅力というものがあって、その面白さ、アイデアは、お金を出してでも手に入れたいと思うんですよね。そこを刺激してあげることは、おもちゃに限らず、商品のマーケティングの基本ではないかと思います。


Copyright © 2015-2019 NTT研究所発 触感コンテンツ専門誌ふるえ