Column:UXを巡る旅 [第3回] 笑い、愉しさとCollaborative Creativity

UXデザインとCollaborative Creativity

  UXデザインとは、ユーザにとって心地よい、そしてワクワクする体験を創出する行為のことです。多くの場合、多様なメンバがチームを組み、ワークショップ(WS)を実施しながら、ユーザ分析やアイデア発想などを行います。そこで重要となるのは、多様なメンバの共同作業による創造性(Collaborative Creativity)の発揮です。複数のメンバで共に検討し、1人では生み出せないような創造的アイデアを生み出すことは、UXデザインを成功に導くために重要な要素です。
  これまでの我々の経験から、WSにおける笑いや愉しさはCollaborative Creativityに強く影響すると考えられます。皆さんも普段の生活で経験があると思いますが、笑いや愉しさは人間同士の心的距離を接近させ、コミュニケーションを円滑にします。これは、UXデザインのWSにおいても同様です。WS中に笑いが増えることで、メンバ間の「腹の探り合い」状態が徐々にほどけていき、発言の量と多様性が飛躍的に増加します。
  では、そんな笑いをいかにして生み出すか?そのための簡単で効果的なアプローチのひとつは、「異領域概念の組み合わせによるヘンテコアイデアの生成」です。

異領域概念の組み合わせによるヘンテコアイデアの生成

  「異領域概念の組み合わせによるヘンテコアイデアの生成」とは、一見関連性の無さそうな単語を組み合わせることで、半ば強制的に新しい概念やアイデアを生み出すことを指します。例えば、我々が東北大学との共同研究(※1)で実施したWSでは、「すり抜けるチラシ」「エレベータ大喜利」など、関連性の無い単語の組み合わせによるヘンテコアイデアが生まれることで、笑いが起き、場がわっ!と盛り上がりました。そして、これらヘンテコアイデアに上乗せされていく形で、様々な創造的なアイデアが飛び交うようになったのです。
  人間が創造的な発想や発見をするための思考法のひとつにアブダクションがあります。アブダクションは、ある結論を説明するための「仮説を生み出す」推論方法であり、新たな発見や発想をする際に不可欠の思考法です。アブダクションによる仮説生成の過程では、対象領域とは異なる領域の原理を導入することが重要であり、これにより新たなひらめきや発想を得ることが可能となると言われています。ここで重要なことは、異領域概念の組み合わせによるヘンテコアイデアの生成は、アブダクションによる創造的な思考を促すとともに、そのヘンテコさにより場に笑いを生み、メンバ間の心的距離を縮めるということです。これにより、自由に様々なアイデアを考えたり、発言しやすい雰囲気が醸成されます。
  UXデザインに限らず、多様なメンバによる創造性を生み出すためには、アイデアの検討過程に笑いや愉しさを織り交ぜていくことが重要になります。閉ざされた空間で堅苦しい雰囲気の会議に時間をかけても、創造性は生まれません。まずはメンバがリラックスできる雰囲気・場をつくり、異領域概念を組み合わせたヘンテコアイデアを発言してみる。それだけでも、Collaborative Creativityの向上に繋がるかもしれません。

赤坂 文弥
赤坂 文弥
NTT サービスエボリューション研究所

研究員、博士(工学)。設計学やサービス工学、システム思考の観点から、Service Design、Living Labの研究に従事。社会に役立つサービスをデザインするための方法論創出や実践知の抽出・表現を主なテーマとしている。

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