Column:UXを巡る旅 [第4回] ウェルビーイングを生み出すリビングラボ

企業も注目する社会課題解決

  2015年に国連が採択した「2030年までの持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)」や、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業に重点的に投資を行うESG投資といったキーワードが広まり、2016年には経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心社会のビジョン(= Society 5.0)が日本政府によって提唱されました。そして、社会の課題解決や価値創出を目的として、生活者と企業や自治体が共にサービスを創る方法論であるリビングラボ(Living Lab)が注目を浴びています。
  私たちサービスエボリューション研究所では、社会的価値を創出しつつ生活者のウェルビーイングにつながり、持続的な共創関係を作るための場となる、リビングラボの研究を進めています。具体的には、福岡県大牟田市、NTT西日本と、福祉×産業連携による生活者の統合的な暮らしに合わせて使い続けたくなるサービスを生み出す共同実験を開始しています。

リビングラボの特徴と効果

  リビングラボとこれまでの取り組みの違いとして、特に重要なのが以下の2点です。
  1. 日々の暮らしを営んでいる生活者をパートナーとする
  2. サービスの作り手側ではなく生活の場で仮説探索する
  産業革命以降、暮らしにおける分業体制が加速し、企業などのサービスの作り手は生活者から遠く離れた存在になってきました。機能だけを提供して選ばれる時代には、その関係性が問題視されることはありませんでしたが、最近では生活者(ユーザ)がどのような体験を求めているのか、どのように暮らしたいと思っているのかが企業の競争力の鍵となってきています。その流れを受け、生活者をパートナーとしサービスの共創に取り組む企業や自治体が増えてきているのです。
  生活者をパートナーとして共創するときに大切なことは、ウェルビーイングを含めた、生活者の暮らしに関わる課題の解決や価値の創出に取り組むということです。多くの企業が生活者との共創の重要性を感じて技術やサービスのトライアル検証を行っていますが、作り手の都合や想いが先行し、生活者を消費者あるいは検証結果を得るためのモニタとしてしか見ていない場合があります。作り手側に重点をおいた活動である限り、生活者の暮らしに関わる課題の解決や価値の創出にはつながりません。そこで必要なのが、生活者の視点に立った仮説探索にしっかりと取り組むための場です。
  生活者のウェルビーイングにつながるサービスを生み出すためには、サービスの作り手が前記の2つの点を重視した活動を行う必要があり、リビングラボは、まさにそのような活動が円滑に進むように支える仕組みなのです。日本ではまだまだ認知度の低いリビングラボですが、昨年度から経済産業省が取り組みを始め、国内で新たに14件の活動が立ち上がるなど、注目が高まっている状況です。これからの動向と、そこから生まれる生活者のウェルビーイングにつながるサービスにご期待ください。
木村篤信
木村篤信
NTT サービスエボリューション研究所

主任研究員、Design Innovation Consortiumフェロー、博士( 工学)。HCI、CSCW、UXDesign、Living Labの研究開発に従事し、サラリーマンや住民がデザインを活用する世界を目指す。

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