Q. 外国語(英語)を学ぶ上で重要なことは何でしょうか?
A. 英語と日本語はかなり違う言語であり、母語が外国語の学習に影響を与えるということは昔から言われています。日本人は英語テストでもアジア30カ国中27位というような状況です。その理由として、いくつかの要素がありますが、まず発音として、日本語にない音韻を話さなければいけません。日本語は母音の数が「あ、い、う、え、お」の5つしかないのですが、英語は10あります。また、子音も、日本語の場合「ら行」は1つしかないですけど、英語では「R」と「L」で異なります。それ以外にも、アクセント(単語中の音の強弱や高低、「雨」と「飴」)とか、イントネーション(文中の音の強弱や高低、「今日ひま?↑(疑問文)」と「今日ひま。↓(平常文)」)という抑揚の情報ですね。もうひとつ、音の時間パターン、つまり発話のリズムが重要だと考えられます。発音や抑揚については、これまでの英語教育の中でも重要性が指摘されているのですが、リズムについては、ほとんど研究が行われていません。Q. 言語のリズムとはどのようなものでしょうか?
A. 世界の言語には、大きく分けて3つのリズムのタイプがあると言われています。一つが、強勢拍リズムと言われる、音の強弱を伴うリズムで、英語とかドイツ語がこれにあてはまります。右図の1の赤文字のところを強く発声して、丸で囲んだところは同じ長さでしゃべるというのが強勢拍リズムです。「ty」と「on a」は同じ長さなので、「on a」が「オンア」ではなく「オナ」と発音されます。 次に、モーラ拍リズムと呼ばれるもので、これは、世界の言語の中で日本語しかなくて、音の単位(モーラ=日本語では五十音)の1つ1つを同じ長さで発声するというものです(上図2)。「on a」は「オンア」と必ず3音で発音します。いわゆる日本語英語ですね。最後に、リズムをとる単位が、モーラではなく、音節(母音を中心とした音の塊)という音節拍リズムがあり、フランス語やスペイン語がこれにあてはまります(上図3)。 アジアの多くの言語も音節拍リズムで、日本語は世界の言語の中で、少なくともリズムという点ではガラパゴス化していて、日本語話者が、英語が不得意だというのはある意味必然かもしれません。日本人からするとかなりショッキングな話ですが、逆に言えばリズムを変えてあげると、劇的に何か変わる可能性を秘めているということも言えます。Q. 日本語英語を矯正するよい方法はありますか?
A. 英語は、発音とかイントネーションが間違っていても、リズムがあってればけっこう聞き取りやすいことが知られています。人間の声は、音源(声帯)とその音を変調する声道(舌や口の動き)によって決まります(下図左)。抑揚は、音源によって決まって、発音と発話リズムは声道の動きによって決まります。日本語英語を変えるには、発話リズムをつかさどる、唇や舌の動きに注意を払うことが重要だと思います。余談ですが、アナウンサーになりたい人は滑舌をよくするということで声道訓練型、歌手やカラオケをうまくなりたい人は抑揚をはっきりさせるということで音源訓練型になります。
私は、日本人が喋った英語のリズム(音と音の時間間隔)を伸ばしたり縮めたりして、強勢拍リズムにすることで英語ネイティブっぽく聞こえる、「それっぽくしゃべります」という技術の研究をしています*。この技術は、日本語母語話者の英語音声から舌や口の動きの時間変化パターンを抽出し、それを英語母語話者のものに置き換えることによりネイティブっぽい音声を実現します(下図右)。これを使うことによって日本人がしゃべった英語をリアルタイムで英語っぽくしたり、自分の声で正しい英語を聞けるようになったりと、英語教育の場面で使えないかなと思っています。対象としては、単語や文法をある程度わかっているけど、なかなか伝わらないという中級者の方向けですね。
私は、日本人が喋った英語のリズム(音と音の時間間隔)を伸ばしたり縮めたりして、強勢拍リズムにすることで英語ネイティブっぽく聞こえる、「それっぽくしゃべります」という技術の研究をしています*。この技術は、日本語母語話者の英語音声から舌や口の動きの時間変化パターンを抽出し、それを英語母語話者のものに置き換えることによりネイティブっぽい音声を実現します(下図右)。これを使うことによって日本人がしゃべった英語をリアルタイムで英語っぽくしたり、自分の声で正しい英語を聞けるようになったりと、英語教育の場面で使えないかなと思っています。対象としては、単語や文法をある程度わかっているけど、なかなか伝わらないという中級者の方向けですね。
写真:甲南大学北村達也教授との共同研究
"original from a forgery" のリズム変換。グラフは各モーラが発声されるタイミングと時間変化パターン。
*廣谷 定男 “発話リズムを抽出・制御する音声信号処理,” NTT技術ジャーナル, vol. 25, no. 9, pp. 26-29, 2013.
Q. 触覚はしゃべるときにどんな役割を果たしているのでしょうか?
A. 私たちがしゃべるときは、一方的にしゃべって終わりではなく、自分のしゃべったことをセンシングして補正しています。補正は、音を聞いてこの音が変だなって調整するための聴覚と、もうひとつ、口が正しく閉じてないとか、舌が正しい位置にないとかを調整するための、口や舌の触覚や体性感覚(身体がどこにあるという感覚)がとても大事だといわれています。たとえばですが、歯医者で麻酔を打った後にしゃべると変な感じがしますが、あれは筋肉が動かなくなったのではなくて、触覚が感じられないことの影響が大きいと考えられます。また、逆に、日本の5・7・5の俳句や、ラップミュージックだったり、ある一定のリズムで口が動かす言葉をしゃべることは、その触覚や身体感覚から、それだけで気持ちよさを感じることがあると思います。このように、しゃべっているときにも、触覚は人の気持ちに大きな影響を与えているようです。