ライフスキルとしてのウェルビーイング・コンピテンシー

ウェルビーイングを実現する資質や能力
今号では、それぞれの人が自身の人生を生きるために欠かせない力を“ライフスキル”とし、身体や人との関わりのライフスキルをテーマとしたインタビューを掲載しています。堀田氏の記事にあったように、私たちの暮らしの大部分は身近な人との関わりで構成されています。であるならば、それぞれの人が、自身のよく生きるあり方(ウェルビーイング)を身近な人々との生活の中で実現していく資質や能力は、とても重要なライフスキルとなるはずです。自身のウェルビーイングを主体的かつ協働的に実現し合うこの力を、「ウェルビーイング・コンピテンシー」として、これまで本誌でも取り上げてきました(Vol.52参照)。
そもそもコンピテンシーとは、教科書的な知識だけでなく、対象や問題に対する態度や、具体的な状況での判断力・行動力まで含む、実践的な資質や能力を指します。つまり、「知っている力」ではなく、「実際の状況に合わせてうまくやれる力」を意味します。例えば、サッカーなら、ゲームのルールやボールの蹴り方といった知識や個別の技能を有するだけでなく、仲間と声をかけ合ってチームのビジョンを共有しようとする態度や、実際の試合状況に合わせた動きの判断、敵が近くにいてもボールを正確に蹴れる力などは、サッカーにおけるコンピテンシーだと言えるでしょう。
コンピテンシーは、日本の教育政策でもカリキュラムの中で育成すべき資質・能力として明示的に示されています。例えば、『平成29・30・31年改訂 学習指導要領』では、育成すべき資質・能力の柱として「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」が挙げられています。今後、教育の現場において、ウェルビーイングと共に、コンピテンシーという考え方はますます浸透していくと考えられます。本誌では、ウェルビーイング実現に資するコンピテンシーについて、どのように獲得・向上できるのか、柏野氏の記事にあるような、身体感覚や実感を伴う取り組みを今後とも取り上げていく予定です。
(渡邊淳司・NTT 上席特別研究員)

『ウェルビーイング・コンピテンシー
学びの現場にウェルビーイングを取り入れるための考え方と実践方法』
平 真由子、渡邊淳司、横山実紀 著 (東洋館出版社)2025年9月発売
教育現場において今、ウェルビーイングが注目されています。しかし一方で、学校のカリキュラムの中にどうやってウェルビーイングを取り入れていけばよいのか、具体的な方法論はまだ確立されていません。本書では、いかにして“ウェルビーイングの学び”を学校で実現していくのか、理論と実践の両面から解説します。各学校の現在の教育の取り組みをベースとして、ウェルビーイングの学びを無理なく取り込んでいくための考え方や工夫、実践のためのエクササイズや学校での実践例を数多く紹介しています。