パーソンセンタードなケアと安心して街歩きできる地域づくり
高齢化が進む社会において認知症のケアは大きな課題となる。大牟田ではこの課題に対して、斬新なアプローチを試み、成果を上げている。大谷るみ子氏の理想である“認知症でも安心して外出ができる街”のコンセプトと取り組みが披露された。
Otani Rumiko
Otani Rumiko
グループホーム「ふぁみりえ」ホーム長。大牟田市認知症ライフサポート研究会代表。大牟田市と協働し、人材育成、 地域づくりに取り組む。

パーソンセンタード・ケアとは?

—パーソンセンタード・ケアとは'80年代にイギリスで提唱された認知症ケアの考え方。大谷氏はこのコンセプトを大牟田市で実践し、全国に広げる活動をしている。

大谷:「パーソンセンタード」という言葉があります。「本人が中心の」という意味ですが、もっと広く考えると「ひとり一人が幸せに暮らす」となるかと思います。私たちはケアの分野で、この考え方をとても大切にしています。認知症の方に接するときは症状などではなく、人にフォーカスするということです。そして、社会の中でお互いに認め合い、助け合うことも重視しています。認知症は多くの人にとって、やがては通る道ですから。

—続いて「認知症を持つ人の心理的ニーズ」について説明された。

大谷:中心に愛があり、周りには「くつろぎ」「自分らしさ」「たずさわること」「結びつき」「共にあること」というキーワードがあります。リラックスすることや自分らしくあること、そして社会的な役割を持つといったことがニーズとなります。パーソンセンタードなケアとは、こういったことを大切にする介護なのです。

—パーソンセンタードの実例として、大谷氏は次のようなエピソードを紹介した。

大谷:ある小学校の花壇の花を、黙って持っていく認知症のおばあさんがいらしたそうです。あるとき校長先生が彼女に声をかけ、なぜ花が必要なのか聞いたところ「ごめんね、仏壇にあげたいから」という返事が返ってきました。理由があっての行動というわけです。ここで重要なのは、校長先生が認知症にフォーカスするのではなく、同じひとりの人としておばあさんに話をしたのです。

—認知症の人も含め、みんなが幸せに暮らすには、お互いを一個人として尊重することが重要だと大谷氏は強調する。


認知症の人が安心して生活できる街づくり

—大牟田市では、認知症の方をサポートするためのユニークな取り組み「認知症SOSネットワーク模擬訓練」を2004年から続けている。

大谷:認知症の方が行方不明になられたという想定の下、行われる訓練です。具体的には、まず認知症の人の情報を市民に伝達し、行政や地域住民などが協力して該当者を街で発見、保護するという流れで行われています。小学校の学区を単位としたネットワークがベースとなっているんですよ。この取り組みは、今では日本全国に広がっています。ここ大牟田が発祥の地なんです。

—子どもからお年寄りまで、さまざまな世代の地域住民が参加しているこの訓練。いわゆる“ 徘徊”を防ぐために認知症の人を管理下に置くのではなく、むしろ安心して外出できる街にしたいという大谷氏の思いが元になっている。

大谷:そして重要なのは、訓練が目的ではないということです。目的は、市民の皆さんの認知症への理解を深めること、見守ろうという意識の定着、そしてセーフティーネットワークの構築です。認知症の方に日頃から「どこに行きよんなさっと?」と声を掛けるような街にしたいですね。


大牟田で生まれた認知症の絵本

子どもたちにも認知症を学んでもらうため、大牟田市の認知症の方々のエピソードを収めた『いつだって心は生きている』という絵本を制作。当事者に寄り添ったパーソンセンタードなストーリーが展開されている。2006年に出版されたものだが、現在でも市内の小中学校の授業で使用されており、模擬訓練にも多くの子どもたちが参加している。


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