福岡県の最南端、大牟田市。かつては三池炭鉱を中心とした炭鉱業で栄えたこの街には現在、日本の20年後を具現化した“未来都市”としての姿があり、将来の日本が抱える課題が顕在化しています。日本の未来を映す街で今、何が起きているのか?今号では、本誌がテーマとするソーシャル・ハプティクスの、特に“ソーシャル”(人と人のつながり)の部分に焦点を当て、同市で3月に開催されたシンポジウムの様子を中心に、「未来都市 おおむた」を特集します。

登壇者/ 大谷るみ子氏(認知症ライフサポート研究会 代表)、椎原春一氏(大牟田市動物園 園長)、ドミニク・チェン氏(早稲田大学文学学術院 准教授)、伊藤亜紗氏(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 准教授) ファシリテーター/ 菅原知之氏(医療法人CLS すがはら専務理事)、渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)


20年先の日本の未来を示す大牟田の現状

  炭鉱業を中心に栄えた福岡県大牟田市は、1960年には20万人を超える人口を抱えていました。しかし石炭産業の衰退とともに人口は減少を続け、2018年の人口は11万人程度。約半分となっています。それに伴い高齢化が進み、大牟田市は、人口10万人を超える都市の中では日本で2番目の高齢化率となっています。
  市中心部の商店街にもシャッターが閉じたままの店が目立つようになり、インフラなどの都市のストックも古くなる一方。まさに大牟田市は、高齢化が急激に進む日本という国の、20年後の姿を示しているかのような状況なのです。大牟田が“ 未来都市”と呼ばれる理由はここにあります。

注目されるパーソンセンタードな取り組み

  多くの課題を抱える大牟田市ですが、福祉に関しては特徴的な取り組みが長年行われてきました。そのひとつが街を挙げての認知症ケアです。認知症の人を管理するのではなく、安心して歩き回れる街にするというユニークな運動が実践されています。また市内の大牟田市動物園では、動物の生活の質向上に取り組む「動物福祉」をコンセプトに掲げ、独自の飼育が実践されています。
  こうした取り組みには、当事者を中心としたケアの考え方である「パーソンセンタード」という共通の視点があります。そしてこの考えは、福祉のフィールドだけではなく、教育やビジネス、そして街づくりといった分野でも有効な視点と捉えられつつあります。

活動をシェアするためのシンポジウム

  パーソンセンタードという新しい価値が、リアルなかたちとなって息づく街、大牟田。ただし、その考えを街のすべての人々が共有しているかというと、決してそうではありません。そこで、より多くの人たちと価値を共有するためのシンポジウムが開催されました。
  登壇者は、認知症ライフサポート研究会の大谷るみ子氏、大牟田市動物園園長の椎原春一氏、早稲田大学文学学術院准教授のドミニク・チェン氏、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の伊藤亜紗氏の4名。そして、医療法人CLSすがはら専務理事の菅原知之氏とNTTコミュニケーション科学基礎研究所の研究員であり本誌編集長でもある渡邊淳司がファシリテーターを務めました。

パーソンセンタード・シティを目指すNTTと大牟田市の取り組み

NTTサービスエボリューション研究所では、これまで新しいサービス作りの方法論を研究してきましたが、企業のサービス開発がなかなか当事者中心のプロセスにならないという課題がありました。そこで、パーソンセンタードな視点を持つ大牟田市と協働し、その課題を乗り越えるための方法論を考え始めています。
そんな中で、パーソンセンタード・デザインという方法論が、社会課題を解決するビジネスや、より良い暮らしができる街づくりに新しい示唆をもたらすことがわかってきました。パーソンセンタードな暮らしの提供を試みる未来都市、大牟田市では、パーソンセンタード・シティの創造を目指して、住民と市役所、企業などが共創する取り組みが進められていきます。


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