未来の都市で求められるパーソンセンタードな社会
  大牟田市では、さまざまな人々の自律性を尊重する「パーソンセンタード(Person-centered)」と呼ばれる考え方に基づく取り組みが行われています。この考え方は「ヒューマンセンタード(Human-centered)」、つまり、人間一般としての全体平均の向上を目指すのではなく、個人個人を尊重した関係を構築しつつ、最終的には、それぞれの人の満足が生まれる協働の場を作るということです。そのようなパーソンセンタード・シティとしての価値観が街に根付き始め、2019年4月1日には、一般社団法人「大牟田未来共創センター」が設立されました。
  また、パーソンセンタードという考え方はテクノロジーのデザインにも応用できます。現代のテクノロジーの多くは、物事の効率的な達成のために発展してきました。しかし、その考えを突き詰めると、人間が考えずとも全自動でやってくれるテクノロジーが優れている、ということになります。それは本当に人の心に満足をもたらしているのでしょうか? 満足感を得るためには、人間社会全体としての生産性を上げようとするヒューマンセンタードなテクノロジーではなく、そこで活動しているそれぞれの人の心にも満足をもたらすパーソンセンタードなテクノロジーが求められるでしょう。
  大牟田市でもいくつか、パーソンセンタードという考え方と親和性のあるテクノロジーが議論されています。そのテクノロジーのひとつとして興味深かったのが「OQTA」(オクタ)というIoT プロダクトです。これは、遠隔にいる人がスマートフォンを操作すると、鳩時計が鳴るというシンプルなものです。自分が外で働いていたり、相手が病院や施設に入っているとき、鳩時計を「ポッポ」と鳴らすことで、相手に「あなたのことを想っているよ」と伝えます。スマートフォンでテキスト(記号)を送る代わりに、木時計の鳩が鳴くことでそこにいる人が思わず反応してしまう、ポンと肩を叩いて思いやりを伝えるような、身体的とも言える関係性を生み出します。
  パーソンセンタードという考え方は、他者とわかり合えないことを前提にしながらも、お互いの自律性や心理的安全性を担保し、丁寧に関係性を構築することを目指します(そこから能力や役割、信頼が生じます)。このようなあり方は、自分の意識と自分の身体という自分の中の他者との関係や、認知症の方とケアワーカーの方の関係、そして、人間と動物との関係と、あらゆる他者との関係を考える上での基盤となるでしょう。

シンポジウムの前日、大牟田市でパーソンセンタードな取り組みを進めている大牟田未来共創センター準備室の皆さんから説明を聞く登壇者たち。

「OQTA HATO もく」遠隔からスマートフォンの専用アプリのボタンをタップするとハトが鳴き、「相手を想う気持ち」が届くという仕掛け。鳩時計1台に最大8つの端末を登録できる。https://www.oqta.com


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