触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌 ふるえ Vol.62
Sustainable Well-being
ウェルビーイングの体験価値

企業活動でも重要なウェルビーイング。経営理念や働き方だけでなく、企業のサービスづくりに取り込むにはどのように進めていけばよいのでしょうか。その実現方法について考察します。


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ウェルビーイングに資するサービスのつくり方のヒント

「ウェルビーイング」という言葉をさまざまな場面で耳にするようになり、企業では、従業員の働き方やそのサポートに関する取り組みが意欲的に行われています。一方で、企業活動として、人々のウェルビーイング実現を支援するサービス開発の重要性も指摘されています。そういった「ウェルビーイングに資するサービス」をどのように考え、どのように生み出していけばいいのか、その捉え方やつくり方について議論していきます。

一人ひとりの"よいあり方"を支え実現のための力を育むサービス

「ウェルビーイング」という言葉が一般化するに従い、企業においてもウェルビーイングにどうやって取り組んでいくかが注目されています。例えば、従業員一人ひとりの働き方に関する調査や、それぞれに合ったサポートの提供など、社内のウェルビーイング向上に向けた取り組みが活発になっています(ふるえVol.61参照)。同時に、事業としてのサービス開発にウェルビーイングをどのように取り込んでいくかということも、企業にとっては重要な視点となるでしょう。そのような「ウェルビーイングに資するサービス」の開発について見ていきます。

では、この「ウェルビーイングに資するサービス(以下、WBサービス)」とは、どのようなものをさすのでしょうか? まず、その定義を考えていきます。ここでは、利用者の「その人のよいあり方・よい状態」(ウェルビーイング)を実現したり、その実現を支える力を育むプロセスをWBサービスと呼びます。つまり、以下の2つの条件のいずれかを満たすサービスをさしています。

  • 利用者のウェルビーイングが促進・持続される。
  • 利用者のウェルビーイングの促進・持続を支える資質/能力が育まれる。

この定義において重要な点は、そういったサービスは利用者のウェルビーイングに直接よい影響を与えるだけでなく、「利用者自身がウェルビーイングを実現する力」を獲得することも視野に入れている点です。ウェルビーイングはそもそも一人ひとり異なるため、多様なウェルビーイングを支え実現するサービスには、利用者自身が自律的に関わる力を育むことも含まれることになります。

このように捉えると、WBサービスとは特別な領域に限定されるものではなく、その範囲は非常に広いものとなります。例えば、日常生活においては、心身のヘルスケア、生活道具、家電、衣服、睡眠環境、住空間など、身心を整えるあらゆるものが含まれます。働く環境で考えると、仕事で使うツールやソフトウェア、オフィス設計なども該当します。さらに、飲食、スポーツ、旅行、アート、エンターテインメント、さらには、教育も含めた、人と人、人と環境との関係性をデザインするサービスがすべて対象となります。

その点を踏まえ、特定の領域に限定するのではなく、どんな領域のサービスにも適用できるように、「どのようにサービスを実現するのか(How)」という観点から、WBサービスのつくり方を整理していきます。

サービスを実現する2つのアプローチ
ターゲット型とアレンジ型

WBサービスの実現方法に関して、ここでは「ターゲット型」と「アレンジ型」の2つのアプローチを紹介します(図1)。「ターゲット型」のWBサービスとは、サービスの主目的そのものが、利用者のウェルビーイングの実現や、そのための資質/能力の獲得であるサービスです。例えば、メンタルヘルスの改善、働き方のエンゲージメント向上、相互理解を促すコミュニケーション設計など、ウェルビーイングの実現やそのための資質/能力の育成を直接的に狙うサービスが当てはまります。

一方で、「アレンジ型」のWBサービスは、サービスが持つ基本機能(生産性・効率性・安全など)を提供しながら、そこにウェルビーイングに資する要因を付け加えるサービスです。例えば、素材開発など一見ウェルビーイングと関係が薄いB to Bの領域でも、利用者に渡る段階で、心の平穏・自己効力感・関係性といった要因を生み出す工夫が加えられることで、結果的にWBサービスとなります。例えるなら、「ご飯(基本機能)」に「ふりかけ(ウェルビーイング)」をかけて、"ウェルビーイングの風味"を加えるようなイメージです。

図1

図1 ウェルビーイングに資するサービス開発のアプローチとして、目的となるウェルビーイングの要因から開発を進める「ターゲット型」と、既存の製品やサービスにウェルビーイングのエッセンスを加える「アレンジ型」という考え方がある。

この「ターゲット型」と「アレンジ型」という考え方は、すでに教育現場でウェルビーイングの学びを実践的に取り入れる際に活用されています(図2)。例えば、ウェルビーイングの概念に親しみ、自己理解・他者理解といった資質/能力を中心的に育む授業はターゲット型。一方、総合学習や道徳、国語など、本来の教科目標を維持しつつ、そこにウェルビーイングの視点を織り込むのがアレンジ型の授業です。どちらにも長所と課題があります。ターゲット型は深い学びを得やすい一方、授業時間の確保や準備の負担が大きく、アレンジ型は取り入れやすい半面、どこまでウェルビーイングの本質を組み込めるかがカギとなります。これら教育での枠組みは、サービス開発においてもそのまま適用できる考え方と言えるでしょう。

図2

『ウェルビーイング・コンピテンシー』
平 真由子、渡邊淳司、横山実紀 著
(東洋館出版社/2025)

図2 教育現場で注目されているウェルビーイングを、学校教育の中に無理なく取り込んでいくための考え方や工夫、実践のためのエクササイズや実践例を数多く紹介している。

ターゲット型のサービスのつくり方

ターゲット型のWBサービスの考え方はシンプルで、ターゲットとなるウェルビーイング要因を明らかにした上で、その要因を引き出すためのプロセスを設計します。これまでの心理学の研究で、ウェルビーイング要因とそれに影響を与える行動・環境・仕組みの組み合わせが、多数報告されています(表)。例えば、「ポジティブ感情」というウェルビーイング要因であれば、日々の小さなよいことの記録、前向きな言葉や人との交流、人に感謝する、適度な運動を取り入れる、といった行動が挙げられます。「自己への気づき」を促すのであれば、一定時間内で自分の頭に浮かんだことを、すべてありのままに書き出すジャーナリングと呼ばれる方法がよく知られています。「関係づくり」であれば、オフィス設計で、人と人が会話しやすくなる机の配置やパーティションを設計するといった場づくりも重要となります。また、「社会貢献」であれば、自分の何らかの行動が寄付につながる仕組みなどが考えられます。このように、ターゲット型のWBサービスでは、ターゲットに据えたウェルビーイング要因が起点となり、そのウェルビーイング要因が利用者に生み出される行動をサポートしたり、物理環境や情報の流れをデザインしたりします。そのため、高い効果が期待できる一方で、ゼロからサービスを組み立てていくことになり、コストやリソースの負担が大きいという課題があります。

要因 要因を引き出すプロセス
ポジティブ感情 ・日々のよかったことをゆっくり感じたり、繰り返し思い出す。
・日常の中で意識的に感謝の気持ちを持つ。
・生活に適度な運動を取り入れる。
自己への気づき ・頭に浮かんだことを、ありのままに書き出す(ジャーナリング)。
・自分に問いを投げかけて、認知のクセを発見する。
・感情、行動、睡眠などの記録を取り、パターンを客観的に見る。
関係づくり ・一緒に何かを作る、考える、解決する共同体験をする。
・お互いに安心して発言できるルールや場づくりをする。
・人と人が話すきっかけが増える家具の配置にする。
受容・承認 ・日常的に名前を呼び、あいさつをする習慣をつくる。
・お互いに相手の話を遮らず、傾聴する。
・お互いに感謝を言語化、可視化する仕組みをつくる。
社会貢献 ・自分のスキルを生かせる領域でボランティア活動をする。
・自分の何らかの行動が寄付につながる。
・自分の仕事が誰にどのような価値を生んでいるかを可視化する。

表 ターゲット型のサービス開発では、まずターゲットとなるウェルビーイングの要因を明らかにし、その要因に影響を与える行動・環境・仕組みの組み合わせから、サービスの具体的な内容を検討していく。

アレンジ型のサービスのつくり方

アレンジ型のWBサービスは、もともとのサービスが持つ「基本機能」に、ウェルビーイング要因を"プラスアルファ"として加える方法です。この考え方を活用すると、ほぼすべてのサービスにウェルビーイングの価値を付加することができます。アレンジ型では、まず基本機能を持つ既存の製品やサービスが設定され、そこへウェルビーイング要因がかけ合わされることで新しい体験価値が生まれます。

具体的な例を挙げてみましょう。例えば、スポーツシューズを例に考えてみます(図3)。その基本機能は「スポーツを行う際の、足の保護、パフォーマンスの向上」です。そして、そこに"ふりかけ"として付加されるスポーツでのウェルビーイング要因を考えます。自分のことに関する「I」の要因であれば、走った距離を記録するアプリと連動し、成果を可視化して達成感を得られやすくする仕組み。身近な人との関わりである「WE」の要因であれば、一緒にトレーニングする仲間と、ペアデザインが選べる特典を付け、関係性を深めるといったサービス。社会との関わりを示す「SOCIETY」の要因であれば、地元スポーツチームを応援する日には、サポーターが同じ靴を履くキャンペーンを行い、地域の一体感を醸成する取り組みなどが考えられます。

図3

図3 スポーツシューズを扱った場合のアレンジ型のサービス開発の考え方と展開例。「スポーツシューズ」の基本機能(モノ/コト)に「I/WE/SOCIETY」の各カテゴリーのウェルビーイング要因(価値)を付加して、サービスの原型となるシナリオ(筋書き)を検討していく。

また、B to Bの例として「野菜や果物から作られた紙」[*1]を考えてみましょう。この紙の基本機能は「文字が書ける」と「使用後は100%土に戻せる」です。ここにウェルビーイング要因を"ふりかける"際には、自社だけでなくステークホルダーを広く考えます。「I」の要因であれば、鉛筆メーカーと協業し、思わず書き込みたくなる心地よさや、没頭できる書き心地を追求する。「WE」であれば、季節の野菜を原料にした紙を使い、季節のあいさつができるハガキを販売するなど、人とのつながりを生む仕掛け。「SOCIETY」では、紙の原料となった地元の野菜の歴史や農家の思いを添えることで、地域とのつながりが生まれる仕組み。「UNIVERSE」では、使い終わった紙を土に戻すイベントなど、自然の循環を身体的に実感できる体験を企画することも可能です。

このように、製品が本来持つ基本機能に、ウェルビーイングの要因と関わる体験を付加するという考え方は、多様な領域に適用できるWBサービスへのつくり方だと言えます。

関わる人々のウェルビーイングが共創されるプロセス

ここまでWBサービスの実現方法として、ターゲット型とアレンジ型を紹介してきました。いずれの方法でも、どのウェルビーイング要因を扱うかの選択が重要です。しかし、そもそもウェルビーイング要因は人によって異なるという前提があります。これを突き詰めると、利用者一人ひとりに合わせたテーラーメイドのサービスが理想ということになりますが、完全な個別最適を行うには莫大なコストがかかり、現実的ではありません。そのためWBサービスでは、サービス側がすべてを完璧に提供するのではなく、利用者自身が関わり、意味を発見し、つくり上げていく余白を残すことが大切です。

学校給食というサービスを例に考えてみましょう。従来は全員に同じ給食を配る方式でしたが、好き嫌いやアレルギーなど、一律では対応できない事情があります。では、完全オーダーメイドが可能かといえば、それは現実的ではありません。そこで、例えば「仕上げ前の素材」を教室に届け、子どもたちが自分に合うかたちで仕上げる仕組みを考えてみましょう。そこでは、友達と相談しながら、各自が自分に合った給食を"まかなう"ことになります。これは、誰かが食事を持ってくるのを受け身で待つのではなく、食に自分で関わり、自分に合ったものを周囲と協力して作る体験となります。

より概念的に言えば、WBサービスにおけるウェルビーイングとは「一方が他方にしてあげるもの」ではなく、そこに関わる人々が、お互いのウェルビーイングをつくりあうプロセスです。もちろん、提供物の差によって対価のやり取りはありますが、「送り手/受け手」という関係性ではなく、ともに場をつくり、価値を共創する仲間なのです。このような視点が広がれば、カスタマーハラスメントのような問題も起こりにくくなり、社会のリソースが減る中でも、WBサービスを軸にした、ウェルビーイングを"まかないあえる"社会が期待できるのではないでしょうか。

ウェルビーイングを“まかないあう”余白のデザイン「ゆらぎ・ゆだね・ゆとり」

利用者が自律的かつ共創的にサービスに関わり、ウェルビーイングを実現するためには、そのサービスに一定の余白(利用者にとっての関わりシロ)があることが望ましいでしょう。そのような余白をつくるためのサービス設計の心構え、もしくは、サービス検証の指針として、「ゆらぎ」「ゆだね」「ゆとり」という3つ「ゆ」に着目することが提唱されています[*2]。サービスを開発するときに、どのようなウェルビーイング要因を付加すればよいのか判断が難しいときには、「ゆ」の視点を取り入れてみましょう。「ゆらぎ」に着目して人の変化に合わせながらサービスを変化させる、サービスの「ゆだね」を調節して利用者が関われる機会を増やす、目的を最優先することから離れて寄り道をするような「ゆとり」をサービスに取り入れる。そうすることで、ウェルビーイングが自律的かつ共創的に実現されるサービスが生まれやすくなるでしょう。また、逆に、既存のサービスに対しても「ゆらぎ・ゆだね・ゆとりはあるか?」と問うこともできます。

ゆらぎ

ゆらぎ

人の変化のタイミングや文脈が尊重され、変化できることに価値があると考える。「ウェルビーイングの発見」を促す。

ゆだね

ゆだね

自律と他律のバランスから、双方に価値が生まれる心地よいあり方を探る。「ウェルビーイングの共創」を支える。

ゆとり

ゆとり

目的を最優先するのではなく、プロセス自体を一つの価値として認める。「ウェルビーイングの可能性」を広げる。

文責:渡邊淳司(本誌編集長)

[*1] 「Food Paper」越前和紙の老舗工房「五十嵐製紙」が手がける、廃棄される野菜や果物から作られる紙文具ブランドを参考。https://foodpaper.jp
[*2] 『ウェルビーイングのつくりかた』(渡邊淳司、ドミニク・チェン、2023、ビー・エヌ・エヌ)
「3つのゆでつなぐ「わたし」と「わたしたち」のウェルビーイング」(ふるえ Vol.48

NTT研究所発 触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌 ふるえ Vol.62 ウェルビーイングの体験価値
発行日 2026年1月1日
発 行 NTT株式会社
編集長 渡邊淳司(NTT 上席特別研究員)
編 集 矢野裕彦(TEXTEDIT)
デザイン 楯まさみ(Side)

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