実感を持って理解する
ハプティックデザインにおける実感の設計とは、そこに「ものがある(いる)」という感覚をどのように生じさせるかということです。その設計を通じて、体験者が、何かの存在を身体的に理解する場を作ったり、身体境界が消失・変容するような新しい体験を生み出すことができます。前者の「触れることによる身体的理解」の例としては、「心臓ピクニック」というワークショップがあります。参加者は、片手に聴診器、反対の手に振動スピーカ(心臓ボックス)を持ちます。そして、聴診器を自身の胸に当てて鼓動を計測し、それを心臓ボックスから振動として出力します。そうすることで、参加者は自身の鼓動を音として聞くだけでなく、振動として触れることが可能になります。さらに、心臓ボックスを他の参加者と交換すれば、自分と他人の鼓動の違いを感じることもできます。参加者は、生命の象徴としての鼓動を自身の手で触れることで、自分や他人の生命存在としての側面を実感し、そのかけがえのなさについて考えるきっかけを得るのです。
一方の「身体境界の消失・変容」の例としては、逆に触覚を失うことでその意義を実感する「アイソレーション・タンク」という装置があります。人間が浮かぶ程度の比重で体温に近い温度の液体が入ったタンクに浮かぶと、人は肌と液体との境目がわからなくなり、皮膚表面の感覚をほとんど感じなくなります。加えてタンク内を完全な暗闇にして視覚、聴覚、触覚の入力をすべてなくすと、体験者は数分のうちに自分の身体が消えてなくなるような感覚に陥るのです。その浮遊感や開放感は、触覚が普段の生活の中で自身の存在を確かめる重要な感覚であるということを気付かせてくれます。
一方の「身体境界の消失・変容」の例としては、逆に触覚を失うことでその意義を実感する「アイソレーション・タンク」という装置があります。人間が浮かぶ程度の比重で体温に近い温度の液体が入ったタンクに浮かぶと、人は肌と液体との境目がわからなくなり、皮膚表面の感覚をほとんど感じなくなります。加えてタンク内を完全な暗闇にして視覚、聴覚、触覚の入力をすべてなくすと、体験者は数分のうちに自分の身体が消えてなくなるような感覚に陥るのです。その浮遊感や開放感は、触覚が普段の生活の中で自身の存在を確かめる重要な感覚であるということを気付かせてくれます。
生命の存在を実感する「心臓ピクニック」。体験者からは、自分の心臓ボックスに対していとおしさを感じたというコメントも。
身体境界を揺るがすゲーム
「Rez Infinite Synesthesia Suit」は、別のアプローチで身体境界が変容する体験ができる装置です。これは、PlayStation® VR用の3Dシューティングゲーム「Rez Infinite」用に作られた全身触覚ボディースーツで、シーンに合わせてデザインされた全身の振動エフェクトを感じながらゲームをプレイできます。最初はアトラクション的な感覚を楽しんでいたプレイヤーは、そのうちに自分が見ている空間と身体の境界が溶けていくような感覚に陥ります。「自分が音楽になった気分」「空間と一体になった」といった感想のほか、「浮遊感」という表現をする人も多いのが特徴です。このように、身体の境界をデザインすることは実感を設計する上で重要な要素であるといえます。
「Rez Infinite Synesthesia Suit」は没入感が高いため、プレイが終わると別のところから現実空間に帰ってきたような感覚に襲われる。
参考文献:“「生命」のシンボル・グラウンディング 鼓動に触れるワークショップ「心臓ピクニック」の評価と展開”坂倉杏介, 渡邊淳司,川口ゆい, 安藤英由樹 アートミーツケア 4, 20-29, 2012.
Synesthesia suit: the full body immersive experience Yukari Konishi, Nobuhisa Hanamitsu, Kouta Minamizawa, Ayahiko Sato, Tetsuya Mizuguchi ACM SIGGRAPH 2016 VR Village, 2016.